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[裏返った菓子鉢。こぼれた甘納豆。
ワカバの口唇にはまだザラメの粒が、]
…
なんて なんてこと――
[声はひどく 恨みがましく。
面は悲嘆に染まり 視界は涙に、歪んだ。]
してくれたんだ。
[山奥の村に、茶屋は「稲荷屋」一軒だけ。
その店を、屋号で呼ぶひとは殆どいない。
いつも客をあたたかく迎える耳の遠い老婆が、
ずうっと昔「かみなりばばあ」なんて渾名を
つけられてこわがられていたなんてことも、
いつから人間好きになったかなんてことも、
覚えているひとはもう――殆ど *いない*。]
[名を呼ぶ声が近く響いた]
なあに?
[ナオの顔が視界に入ると少しだけ笑い、またあの座敷に転がる大福のように丸くなって、うたかたの中の*眠りへ*]
冷え性 ロッカは、ここまで読んだつもりになった。[栞]
[とっても暇そうに、天井を見上げている]
僕が――。
[無意識に囁いて、ほんの一瞬苦笑する]
残っていても。
まあ、何もできなかっただろう。うるさいわ。
[いつものように、軽口を叩いた。*]
『やっと見つかったと、思ったのに』
[倒れた体、フユキに背負われた体とは、違うところから『声』がする]
あちゃー……ロッカちゃんまで、こっち来ちゃったんだ。
[それは、フユキやホズミには、聞こえないであろう『声』]
『みんなみんな泡になっちゃえばいいのに』
……ロッカちゃん?何の話?
ロッカちゃん!?
[なあに?と、眠そうに微笑む顔は、ついさっき茶屋で見たのと同じもの]
えっと……。
ロッカちゃんは、何を、知って……いや。
何を、探してるんだろ?
あたしに、できることは、ある?
[見当もつかないままに、問う。眠りに落ちるロッカを、引き留めることはしないまま]
……あの馬鹿、どこ彷徨ってんのかなー。
バーゲンにでも行ったんだろーか。
まあアレだ、あいつがいたからって、どーにかなるわけでもないっちゃないんだが。
あたしも、なーんにもできてないわけだし。
窓硝子に映ったアレも、無駄んなっちゃったしなー。
[がっくりと肩を落とす]
[ホズミの腕の中でくてりと眠ったままで]
……どこ さまよ てんのかな
窓硝子にうつ たアレも …駄にな ちゃったし ……
[蔵から出るよりも前に、そんな言葉が小さな口から紡がれるが、それが猫の口からのものだと人間が気づくかは――*]
あたしに、今、わかるのは……
あいつが、アンちゃんやあたしをどーにかしたんじゃない、ってことだけだね。
なんという情報不足!
ま、なまじ真相に辿り着いたとしても、ホズミねーさんたちに伝える術がないわけで。それは余計に胃に悪い気もするね。もう、胃とか無いけどさ。
……声を無くした人魚姫は、やっぱりそういうやきもき気分だったんだろーか。
いや、柄じゃないから。
[視線を落とせば、制服のスカートから、見慣れた自分の足がのびている]
…ん。
[ぼんやりとしたまま何度か瞬く]
あれ、ここどこだっけ?
[茶屋の娘と話したあとの記憶があいまいになったまま思い出せない。あのまま寝てしまっただろうか]
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