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[行こうと思えば誰の元へだって行ける。
隠れようと思えば逃げられるけれど、追いかける意思を止めることは出来ない。
誰かに伸ばした手は、手首の内側、染まった赤を見せる前に引っ込められて。
結局まだ、何も出来ていない]
つまらないじゃない
つまらない
あの女は何も言わなかった
何も言わせなかった
あの口から何か零れる前に、切り開いてやったから
[ぶつん、とナイフより大きい手応えがあった。
刃渡りが大きいとはいえ、所詮裁ちばさみ。布を切るためのものは、皮を裂くのは苦手らしい。]
あは。
[深く差し入れていく。抵抗を感じるが、それでも奥へと刃はめり込んだ。
鋏を開いていた手に強く力を込めれば、間にあった肉が切れて血を吹く。]
何、見てんの。
[地に押し倒して、自分は上にいる。あえて視線を逸らすなりしない限りには見られて当然なのに、何故か急に不快に思った。]
そんなにキミを殺す相手が憎いの。
違うでしょ。ボクはキミに感謝されるべきなんだ。
今日は君が、生まれ変わる日なんだから。
[閉じたまま引き抜いた鋏を、左目の脇にねじり込む。
そのままぐるりと一周回して、片方を抉り取った。
"殺す"だけなら、こんなことは必要ない。
が、思いのままに動く鋏は、感情と好奇心と探究心を満たすためだけに、鮮血を滴らせる。]
このまま舌を切ってみてもいい?
耳は? 指は? 爪先は?
はは、あははは、
[衝動に任せて、鋏を動かしていく。
衣服を切り裂いて、傷口がよく見えるように肌を晒した。
胸元をまた抉った。胸や腹は広くてやりがいがありそうだ。
興奮に高らかな笑い声を響かせて、何度も、何度も、ウルフの身体に銀の鋏が突き立てられる**]
[声が聞こえた気がして振り返った。
それは音程を外した笑い声だったか、問いかけだったか]
…さっきの店の連中か?
なんの冗談だ、納期も近いってのによ…。
[起点はあの店なのではないか。
他に行くアテがあるわけでもなく、そもそも行き着く場所が有るとも思えず、来た道を戻り出した]
[笑い声。足音だけの路地にそれはよく響いた。すぐそこで笑っているみたい。けれどほら、角を曲がっても誰もいない。
濃い血の匂いに袖をまくる。
あの時、ナイフで傷つけてしまった手首の傷は、もう完全に塞がっていた]
は、あは、
[勢いをつけて振り下ろすから、皮が裂けるたびに辺りにウルフが飛び散った。
腕を、頬を、胸元を、飛沫が飾った。それを拭うか、興奮冷めやらぬかで舌なめずりをする。
口腔を支配する血の味を美味しいとは思わない。ヴァンパイアへの道は遠そうだった。
幾つも胸に腹に穴が空いた。ここに花の種を植えたら、赤い花が咲くだろうか。]
べたべた。
[真っ赤になった手を、まだ白いままのウルフの頬になすった。
もう、横たわった身体はぴくりとも動かない。]
[青い髪を、一房鋏で切り落とした。不自然に短く切られた束が目立つ。
ぐるりとキャンバスを探す。一面スプレーアートのようになってしまって、中々広いスペースを探すのは難しい。
それでも、ちょうど今自分のいた真後ろがまだ綺麗そうだと気づけば、頷いた。]
よし。
[生まれたての子供の髪で作る筆はよいものだという。
それには少しばかり早いが、誤差の範疇だ、きっと。
たっぷりと"絵の具"に浸して、壁に走らせていく。
上機嫌に三文字書いたところで、ふと。]
そういえば、名前聞くの忘れたな。
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