人狼……って言っていたよね。
[まだ小さかった頃、家族がいなくなってしまった時の事を思い出す。]
──あの夜、知らない誰かの声がしていたっけ。
あたしが「誰?」って聞いたら、「私の声が聞こえるのか?」って声がして。
[客人かと思って、ベッドを抜け出し、挨拶しようと向かったリビングで見たのは、父や母、祖父母の変わり果てた姿だった。]
あの声は、人狼の声だったのかしら?
[本を閉じる音が夜空に響く。]
確か…物語にも忠告として載ってたけどね。
[降り積もった蒼白い地には鮮血。足元には事切れる男の顔]
知りませんでしたか? 真夜中は本来の顔に戻るってこと。
[紡ぐ言葉は羽毛のように*軽い*]
へぇ、聲が聴こえる奴が居たんだ。
[彼は夜空を眇めながら、問いかけの声に口許を緩めた。]
でも、その匂いだと君は人間だよね。一体どうして僕に気づいたんだろうね。
[柔く問う言葉にはよそ行きの笑みは成りを潜め、妖しい響きが色濃く*漂う*]
……んー。声が聞こえる人は普通いないものなのね?
[確かに、今思えばあの時も、自分に声が聞こえた事を不思議がられていた節がある。]
ところで、あなたは誰なのかな。
[部屋を同じくしているうちの一員なのだろうか。**]
僕?
――…内緒。
[まるで子供の様に無邪気に嗤う声が、漏れる。
信用は、しない。する程の情報が無いからだ。]
仲間同士は聲が聞こえるみたいだけどね。人間は…知らないな。
[ぱらぱらと本を捲り、ふと思い立ったように声を上げる。]
所で。僕に話しかけてきたという事は、何か用があるの?
それとも興味本位?
それとも――…
人狼騒ぎの犯人として、正体を暴いて皆の前に突き出す心算?
[先ほどまでの無邪気さは一瞬にて消え失せ、冷たい声が響き渡る*]
そう、用がならいいや。
[返答に軽い色を乗せて紡ぐ。]
でも…その問いかけだと、誰かを噛み殺したい人でも居るの?
[更なる問いには問いを重ねて返しながら。]
ずっと前に、ね。こんな風に声が聞こえたの。
どんな「人」だったかは知らないけれど。
[あの夜居間の窓から見えたのは
まるい月の下を駆け抜ける獣の姿のみ。
]
[もうすぐ夜が明ける。
声の主からの答えは、彼の心をどのように揺さぶったのか。]
そう。でもきっと「ずっと前」と僕とはきっと別の人だろうね。
[歌うように伝えると、振り続けた雪は*止んでいた*]
―― 翌朝・集会場 ――
神様すまん、もう酒なんて一滴も飲まない。
[渡された投票用紙を握り締めた手で、二日酔いの頭を押さえる。
遠く聞こえてくるのは、アーヴァインが無残な姿で発見されただとか、処刑者を決めろだとか、自警団員による*一方的な話*]