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[俺が子供の頃この村に住んでいた関係で担当者になったようなもんだ
3年前に転勤の辞令が出たが必死で止めたのが作家先生だった
少し前に奥さんが亡くなり酷く落ち込んでいた所で
縁も所縁もない担当者まで変わるならば筆を折ると
普段温和な作家先生が編集長に猛抗議の電話をかけてきた]
(縁ねぇ…)
[俺の父も若い頃は編集者だった
家に居る時間は短く働きづめだった父]
(今の俺も待遇は大して変わらんけどな
違うのは家庭がない位か)
[出版社は違えども若かりし作家先生の最初の担当者が俺の父だった
俺は遅くに出来た子だったから父は大変喜び
作家先生に名付け親になってもらったとかで
結構親密な関係にあったらしい
その後父は転勤になってしまったが
時折作家先生を訪ねて村を訪れていたようだ]
[今の出版社に就職して
偶然作家先生の担当になったのは縁が呼んだのだろうか]
[作家先生の家から祭り会場までは下り坂が続く
途中に子供の頃通っていたドウゼン先生の診療所があり
先生が窓から空を眺めていたので軽く挨拶をして]
先生、お久しぶりです
相変わらず難しい顔をしてますね
[先生の見ている先を振り返ると少し赤くなった雲が流れている]
(あれはきつねぐもだっけか…)
[あれが狐雲だよ。
そんな言葉を聞いたがあんな形だったろうか。
昔に一度見ただけなので思い出せない。
]
……。
綺麗な夕焼け。
[雲とは全く無関係な感想が口をついて出る]
[祭りに向かう人の群れの中、一瞬だけ、荷物を持ったまま来た事を後悔したけど]
今から引き返すのもなあ……。
[そんな思いがあるから、そのまま、屋台の並ぶ通りに飛び込んで]
えーっと、ラムネ屋さんはー……。
[最初に探すのは、祭りの時の個人的定番]
[しかし気になるのは、雲よりも祭りの出店。
いつしか意識は空よりも下の方へと]
引っ越す前はお祭りなんて見たことないから
ずっと楽しみだったんだよねー♪
[自然と笑みがこぼれる]
[人間が歩く
犬も歩く
人間が話す
犬は吠える
赤茶色の髪が
茶色の毛並みが
夕日に染まる
神社に向かって1人と一匹が歩く
それは変わらない光景]
こんな暑さだってのに、何で毎年毎年豚汁とカレーなんだろうね。
うちの先生も文句言ってたよ。
[神社の片隅、婦人会テントの下で、持ってきた野菜を取り出しながら笑う。
ネギヤが指した空を見上げて]
ああ、今年も出てるのか。
ネギちゃん、あんた気をつけなよ。
[そこに浮かぶは*狐雲*]
[鳥居の外から境内へ、まずは何から見ようか。]
お、おっちゃん、焼きそば一つとビールも。
……あ、まだか。ども、また来ます。
[吟味するより匂いに惹かれ近寄ったのは焼きそばの屋台。
生憎まだ売っていなかったが、まずはあれからにしようと決めた。]
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