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――夜半。雪原の祭壇へ注視していた者がいたなら、
狼の中の一頭が供犠へ飛びかかるのを目にしたろう。
いつしか祭壇を押し包むように取り囲んでいた狼は、
その跳躍を皮切りに次々と横たわる女へ群がって――
ドロテアの姿は、すぐ黒灰の陰に隠れ見えなくなる。
遠目にも、夜目利かぬひとの目にも、
天に靡くオーロラよりもすこしだけ
深く匂い立つその色は見分けられる。
ばしゃり、
熱泉の如く噴きあがる、鮮血のいろ。
白々とも明けぬ夜が、時間ばかりは朝を迎える頃に
狼のいなくなった祭壇を確かめに行く者がいたなら、
狼の飢えを示す如く丹念に舐め取られた薄い血痕と、
踏みにじられた儀式用の幕を見つけることができる。
ドロテアのそれとわかるものは、肉片も、骨片も、
纏っていた衣服の切れ端すらも残されてはいない。
村が捧げた供犠は違わず受け取られ――
ひとときを永らえた者たちの夜が*来る*。
[トゥーリッキの姿を視界に認めた。目前で見上げられると、男は見下ろす形になり、視線を合わせ]
……どうか、したのか。
[相手がそのまま黙していたなら、促すようにそう言って。
何かを言われれば、じっと聞くだろう*]
―村の外れ―
[極光舞う明けることのない夜空。
止んだ遠吠え――本来はそう在るべき静寂に、戸惑いを感じていたことに驚いた。
俯き、少女の魂の平安を――せめて、祈り。
そのまま、立ち並ぶ家の外れに佇む自宅へと帰還した]
[やがて、ドロテアがその役割を果たした事が知れれば――男は容疑者達に、あるいは村の者達に、それを伝えに行くのかもしれない。多分に察せられただろう不幸を、再確認していくかのように。声色や素振りに感情は乗せず。ただ普段と変わらない憂いを孕んだ瞳をもって、使者の男は在る*だろう*]
――きっと、憂鬱、ね。
[相手の言葉を繰り返すにとどめ、"だが"で途切れた先があるのなら聞かずに立ち去ることはなく、先なくも幾ばくかの沈黙が流れようか。]
憂鬱だろうと、愉しかろうと、当事者がやることは一緒。
お前は"傍観者"になるつもりか?
感情なんてその実感がなきゃ理解も出来ないだろ。
無理にわかろうとする必要はない。
どのみち"憂鬱"なんて、消極的な感情だ。
[吐き捨てるように告げる言葉は自分へ宛てたようでもあり、供儀の娘を想えば苦笑しか浮かばない。
静寂を映す赤い空を見上げ、白い息を*吐いた*]
[遠吠えが止んでからも、
しばしその場に佇んでいた]
――これからが『本番』ってことなんだろうね。
[決意する。
捧げられた命の結末を、この目で見つめようと。
それは、これから自分たちが行う事の、
犠牲となるものの行方の確認作業であった]
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