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―― 朝/自室 ――
[昨日はペッカの家にいったあと、町をぶらぶらしてから夕方ぐらいに宿へともどってきていた。
それからあれこれと手伝い、自室に戻って――起きたのが今という。]
うわあ……
[寝すぎだと、父親に怒られて頭を抱えながらもそもそと支度をして、宿の一階へとでていくのだった。]
─前日/ペッカの家─
あれ、ベルン。アンタも来てたのかい?
[同僚と話す先客>>1:86の姿に軽く、首を傾げ。
伝言に立ち寄ったのだと聞くと、土砂崩れ現場の方へふと視線を向ける]
……あの子も頑張るわねぇ……。
少し、頑張り過ぎてる気もするけど。
[一人で作業をしているのは知っているから、口をつくのはこんな言葉。
それじゃと手を振り離れるベルンハードを見送った後、同僚としばし語らいの時を過ごす。
話すのは、刺繍の図案のことや、これから産まれる子供のこと。
それから、外を駆け回る女自身の恋人の話。
他愛もないといえば他愛もないやり取りで時間を埋めると、帰途についた]
[帰る道すがら、ドロテアを探すものの、結局その姿を見る事はなく。
明日になったら家に行ってみるか、と思いながら帰宅し、翌日]
……帰ってない?
[朝一番に訪れた少女の家で聞いたのは、昨夜から戻らない、という言葉]
そっか……じゃ、アタシも探してみるわ。
……ああ、いいのいいの。どうせ、今は仕事も進められないしね。
[手間をかける、という家人に笑って言って、歩き出す]
……無茶な事してなきゃいいんだけど。
[昨日、最後に見た姿を思うと、不安が先に立つ。
ともあれ、それはひとまず押さえつけて、少女を探して*通りを歩いた*]
―― 宿の一階 ――
[あれこれと用事を済まして居るときに、どこかざわついた空気を感じて周囲を見る。
いつも来る人たちのうちの何人かが、どこか思案げな顔をして、昨夜からドロテアの姿が見えない、と呟いていた。]
――
[それを聞いて、一瞬手を止める。
僅かに息をついてから、暫し考えるように首をかしげ――]
まあ……昨日も顔を見てないし、探しに行くべきかなあ……
[どうしようかと、悩む素振りで手にしたモップの柄に顎を乗せた。]
―― 自宅 ――
んー?
[カーテンの隙間から差し込む日光に顔を顰めた。
昨日、帰路にベルンハードと話したことが脳裏に蘇る。]
ドリー。
―― →森 ――
[森の中には小さな家がある。
村一番の老婆が亡くなって以来、空家のそこ。
玄関は鍵がかかっているが、台所の窓は開けることが出来るのだった。]
お邪魔します……
[ぎし、ぎし、と重い音がする中、薬品が残されたままの戸棚へ近づく。
ドロテアがいないと騒がれていることも、ましてや、すぐ近くに遺体があることも、アイノはまだ知らない。*]
―― 自宅 ――
[朝食の席。ペッカは、姉の話を聴いていた。
前日の姉は、来客があって楽しく過ごしたらしい。
先に来たベルンハードは長居しなかったが、彼と
話すとのんびりした気分になれて好いという話。
ウルスラと刺繍の話をしたが、古布をほどいた糸を
使えば淡い表現が出来るかもしれないという話。
彼女のよいひとはまだひみつと詮無く勿体ぶる話。
あまり気の利いた相槌も打てないペッカだったが、
臨月の姉が和やかに笑むのを眺め朝食を摂った。]
――朝、宿の一室――
……むかつきますね。
[目覚めはあまりよくはなかった。昨日のことを思い出して独り言つ。
なにを言ってもウルスラにはさらりとかわされて。そのまま別れてしまえば苛立ちだけが残った。]
僕も気が立ってるんでしょうけど。早く開通すればいいのに。
[いつもの燕尾服に着替え、外にでる。]
戻ってない……?
[食堂に行けば、戻らぬドロテアが騒ぎになり始めていることを知った。何か知らないかと言われれば、首を振る。]
僕が知るはずないでしょう。彼女には嫌われてるんですから。
[僕も彼女が嫌いですよ、なんてことは言わなかった。]
―― 森からドロテアの家へ ――
[――数人が運ぶ戸板に、横たわる亡骸。
森で見つかったドロテアは、村人らの手によって
無残な死の知らせと共に生家へと運ばれていた。
手伝いに呼ばれたペッカは、皮膚だけで体に繋がる
ドロテアの足が千切れぬよう、支えながら歩いた。]
… ……
[誰も口を開かぬ道行きは酷く重苦しく気味が悪い。
紅いしたたりは赤黒いねばつきへとかわりゆき――
恐ろしく長い時が、それでも移り行くのを示した。]
[ペッカは、呆然と光景を瞳に映す。
喰い散らかされた骸へ白布がかけられるのを見た。
その白へ、零れた命の色がじわじわと広がるのも。
『 人狼は 居たんだ。 』
深く暗い穴の底から昇るような怨嗟の声を聴いた。
死者の父親が蒼白な面持ちに怒りを混ぜるさまも。
――血腥い匂いを引いて、列は村へと向かう。]
[少女を探していたウルスラとは通りで行き会った。
ペッカは、目が合った彼女へぎこちなく首を振る。
遠巻きに、或いは駆け寄って。嘆きの列はゆく。
…村衆の列。誰からともなく、呟きは漏れ出す。
『 …狩り出せ。 』
『 追い立てろ。 』
『 人狼に、復讐を。 』
村を覆い渦巻き出す何かを感じて、ペッカは吐気と
悪態とを同時に堪えるような面持ちで列に従った。]
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