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昔の四辻村はね、
漆(うるし)がよく採れたんだって
[幽霊はズイハラ氏が投げて寄越した携帯電話を
ぱく、ぱくと開いては閉じを手の中で繰り返す。]
ジャム蕎麦とか ジャム煎餅ってあるだろ
…アレは
職人さんが漆を舐める 通過儀礼の名残り
漆(うるし)はさ、
燃やした煙を吸っただけでも
木の近くを通っただけでも ひどく体に障るから
四辻村では 御湯治場の神さまに祟られることを
「うるしさまにかぶれる」って
そう言うようになったんだって
[電話をかける声は、土蔵で聞いたことがあるが
現物の扱いなど知らず――当て所なく語りかける]
こんな言い伝えも 知ってる人たちは
みんな死んで おばけになっちゃった
[キシ..リ...ィィ..ィ]
『――…れて』
[其れは変貌。背中から生えた、
萎れた『翅根』が切っ先まで広がりゆく音。]
――…はっ…あはは、あああ、******** ***********
[嗤う听う*う]
『かぶれてしまいますよ…――』
[声ならぬ声、咆哮のようなわらい声をあげる。]
[異界は裡に満ち乃木を呑み込む。顔の下半分を捩れさせ出現させるのは、両側に突き出す昆虫めいた穢れた色をした外骨格と複眼。人の形をした両目から血の涙が外骨格と複眼を赤く濡らす。]
[両手を胡乱に両側に広げ、上半身からぐぅるりとズイハラを振り返る。続いて捻るように下半身もそれに続き、翅根が震えた。]
[髪留めを失い、幽鬼の如く垂れている髪。
廃屋の壁へもたれ、回復を待っていたけれども]
あ。
[草がすれる音。
足下の草むらでふいに垣間見えたのは、特徴的な生物のフォルム]
ま。ままままさか。
つ つちの こ…?!?
[確かめなきゃ。必死の形相で、強張る身を伸ばした所で…力尽きた]
[過去をうつし留めたこの村では、未だにツチノコブーム中だ]
[見ぃつけた、の声はかけず。
少年の幽霊は倒れ伏す美津保嬢のそばに在る。
弾痕を一度摩る仕草をして、立ち上がった。]
…教えてくれるなら、子守唄がいい
[トリスウイスキーの瓶にも似た生き物の影が、
草むらに蠢いて去る頃には、幽霊の姿も消える*]
[――ぱん。
銃声が、聞こえた。異形の女を撃った音の残響、ではない。もう一つの音が、響いた。何だ、と思う。一瞬、時が止まったように思えた。緩慢に思考を巡らせる間が、あった。――その空白は、弾けるように終わった]
…… っ あ、
[長身が、駆けていた勢いのまま、ぐらりと傾いだ。膝が地面に付き、そのまま全身が崩れ込んだ]
……っい、……ぐ……
[赤涙は溢れ流れるまま。口元に刻まれているのは笑み。その下顎部は半ば昆虫頭部が如くに変貌している。翅根が震え…やがて、羽ばたき、乃木の身体を地上から持ち上げる。無造作に銃をぶら下げ構えれば、ズイハラの斜め上空より事も無げに身体へ撃つ。
翅根屍人、そして武器の優位性。
辺りへ、羽ばたく音が低音に響く。]
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