情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了
[1] [2] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
院内
[診察室に戻り、幾許かの書類作成を終えてから、検査室へ篭って数人の患者の検査立会いを行った。
長い期間当直医が続いていた。当直室に入ってすぐ、緊急搬送の一報を受けて救急救命室へと急いだ。
顔など、確認する猶予はなかった。『救わねば』その使命で頭は一杯だった。
ただ、看護師が繰り返す『音羽沙良さん、わかりますか、オトハさん』というその名に驚愕する。
患者は元歌手のオトハで、この病院からの帰りに事故に遭ったのだとの説明は、右から左へ流れていった。
先程、ほんの数時間前に見た、あの姿――]
――オトハさん、……頑張ってください、
……っ!
[聴覚が弱い事は知っていた。故に、頬を擦って触覚を与える。
救急医療は忙しなく続いていた。けれど、医療機器は無常な結果を音として伝うだけ。
彼女は遂に一度も、意識を取り戻すこと無く還らぬ人となった。]
――ご臨終、…です。
[形式的に瞳孔を確認し、死亡時刻を音と成す。
紡いだ響きは僅かばかり、震えを帯びていた。
全ての処置を終えて当直室に戻る刹那、あの澄んだ美しい歌声が鼓膜を掠める。
激しくかぶりを振り、聴き馴染んだ歌声から耳を塞いだ。
父の形見の腕時計を、それを付けた左手首を、必死な形相で握り締めて]
僕の、せいじゃない……、
壊れたら治せばいいだけじゃないか……、
ねえ、そうでしょう、父さん……
[壊れた時計を掴みながら、虚ろな瞳を泳がせた。
漂う死のかおりに、息が詰まりそうだった。]
[大きく見開いた眸には、リノリウムの床も真っ白い壁面も、何も映ってはいない。
薄らと眦に涙を滲ませ、歪んだ微笑を浮かべる医師の姿が其処にあるだけで]
……僕の、せいじゃない。
……死が、……追ってくるから、いけないんだ……、
……治せなかった、けど、……次は、……きっと、……、
[きゅっと掴んだ左手首、大切な腕時計は明日、修理に出そうと決めた。
また動き出すはずだと、そう思うことでまだ、平静を保つことが、できた]
朝:603号室の前
[仮眠は全く取れなかったけれど、朝は静かにやってくる。
朝食も録に喉を通りはしなかったけれど、ビタミン剤と栄養剤の注射を打った。
それから、父の形見の腕時計を一番近くの時計屋へ修理に出した。
古い舶来品故に部品が上手く噛み合わないかもしれないとの返答に眉根を寄せたが、夕刻までに結果が解るとの反応に、ほっと安堵の息をつく。
院に戻ると書類作成や引継ぎを終え、回診へ。
603号室の担当医は公休の為代理だ。
昨日、様子を見に来れなかった事もあり、自ら進んでこの部屋を訪れた。]
黒枝さーん、入るよー。
[思春期の少女の病室は、特に注意して扉を開くことにしている。
返答が無ければ最後にしようと、今はその手前で*佇んで*]
[午前の院内は人々の活気を肌で感じ取れる。
カルテを手にした左手の手首を一度軽く握り、603号室へノックと挨拶を送った。
聞こえてきた元気な少女の声、慌てふためいた様子は扉を開く前から目に浮かぶようで、沈んだ心に生気を与えてくれるようだった。]
もういいかな、入るよ。
[促され、静かに扉を開いて「おはよう」と微笑んだ。少女の顔色は悪くない、後ろ髪がはねているなんて、患者ならば常の事、寧ろかわいいアクセントに映った。
もしかすると少女は出迎えてくれたのだろうか。寝台近くに佇んでいるのなら、そっと肩へ触れて寝台を示し]
横になってて良いんだよ?
それとも、寝てるのももう、飽きたのかな?
そりゃごもっとも、だ。
昨日はどう、よく眠れたかな?
[そっと寝台へ導き、自分はその前へと立つ。
手許のファイルの内容を確認した。ざっと目で追うが、朝の検温等では別段変化は見受けられなかった、かもしれない。]
うん、そうだね。
どうかな、体調は。
[簡単な診察を行うだけなので、緊張しないように会話を続ける。
黒枝が寝台に腰を下ろせば、指先を頬へと滑らせ顎をほんの少し上向かせて喉奥を確認しようと。
心音や脈拍を測り終える頃、何気なく呟いた彼女のひとことに、ぴく、と動きが停止した]
―――…、……。
[無垢な瞳を、凝視する。
伝えるべきか、否かを計算していた。少なくともオトハに何かがあった事は、伝わってしまうか。]
[身体が凍りついたように動かない。
残像が、フラッシュバックのように視界で跳ねた。
これまで目の当たりにしてきたいくつもの死が、その冷たさが背後から迫ってくるようで]
……オトハさんは、……
オトハさんは、亡くなったよ、昨日。
[無垢な瞳の前で、上手に嘘をつくなんて出来なかった。真実を告げる事で彼女を傷付けることになると、解ってはいたけれど。
責められているような錯覚を覚えてしまい、斜め下方へと緩く視線を落とした姿で、簡潔に告げる]
[静止した時を動かしたのは自分ではなく、まだあどけなさの残る黒枝の方だった。立ち上がる気配を感じて視線を持ち上げると、彼女は微笑んでいた。
静寂に響くその言葉は、一瞬でも真実を詰まらせた相手を気遣う内容だった。]
うん、すてきな声、だった。
黒枝さんは、……しっかりしてるね。
[部屋を出る支度を横目に、己もカルテを閉じた。
高校生に気を使われてしまうなんて情けないけれど、その心遣いが今は、ありがたかった。]
あるさ、……早く学校に戻れるように、がんばろうね。
[彼女を含む患者達を救う事が、自分の使命だ。
気持ちを切り替え、笑みを浮かべて病室を出た。
その微笑はかすかに、歪んでしまっていたかもしれないけれど。]
→ラウンジ
[603号室を出て看護師への引継ぎを終えると、ちょうど休憩時刻になっていた。
外に出向く気力もなく、カップの珈琲を買ってラウンジへ。
誰も居ないラウンジは、何処か侘しかった。
窓辺の席で、ぼんやりと海の方向を見つめ時を過ごしている]
[ぼんやりと海を見つめながら、思うこと。
それは、入院患者たちのことだった。]
……全員と、話をしてみたいんだけどなあ。
……僕ちょっと、……要領が悪いみたいで、……。
[『患者に対して必要以上の感情移入をしてはいけない』
生前、父はそう言っていたけれど。
自分はまだ、うまく切り分けることができていない。
だからこそ、患者たちの死に深い絶望を覚えてしまうのかもしれずに]
ああ、そうだったそうだった。
えーと、おはようございます。
[視線が重なったのは丁度、沢渡の病室の前だっただろう。
ちらり、沢渡千夏乃、という病室の名札を確認する。物静かそうな、けれど屈託のない笑顔につられて、こちらも頬を綻ばせた。]
そうか、弟と仲が良いんだね。
……今から、勉強? 先生も少しお邪魔しようかな。
[彼女の肩にかかるバッグを指し示し、首を傾げた。]
/*
みんな、次の一手を悩んでますね。
わかりますわかります。
僕、一番動き易い職業なのに上手く動けなくてごめんなさい…
在席してそうな所から突撃してます。
夜明け前までに柏木さんの部屋にも行きたい。
/*
人形師 ボタン:田中ぼたん
社長 ヘイケ:平家 一二三
画家 レン:柏木 蓮介
学生 タカハル:後藤孝治(15)
おさげ髪 チカノ:沢渡千夏乃(中学生)
学生 ナオ:黒枝奈緒(16)
学生 コハル:鎌田 小春(高校生、バレー部)
[廊下で立ち話をしていた矢先、横切る少年へと意識が映る。
小さな頃から幾度か見たことのある顔だ。軽く手を上げ挨拶を送る。]
おはよう、後藤君。
……ああ、『初めまして』なんだね。
[…と、そこで沢渡の様子を見守る。
嬉しそうな様子に気づいて双方を見つめた。]
立ち話もなんだし、談話室に行こうか。
何か飲むかい、二人とも。
[1] [2] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了