[――それから1年。
雛市 トキはまた村へやってきた。
錆びたバス停の脇へ降り立って空を振りあおぐ。
ネギヤを連れて行ってしまった狐雲を探して**]
今年も狐雲が出ている
[変わらず夏が来た
変わったのは村人の一人が何処もなく消えた事
神隠しと人は言う
でも青年と犬にとっては変わらず来た夏祭りの日
茶色の毛並みの犬は相変わらず、赤茶色の髪の青年の横に座り、「ワン」と鳴いた]
今年も誰かがいなくなるのかな、ポチ
神隠しの導き手は――
[また変わらず、空を見上げる**]
はい、もしかしたらまた食べにひょっこり帰ってくるんじゃないかと思いました。
[今年は北北西で、助六寿司と豚汁を作っていた。
そのことに言及する客に、少し困ったような*顔を向ける*]
いい年した大人が黙って居なくなるなんて勘弁して欲しいですよね。
[からん、ちりん、ころん、ちりりん]
[鈴と下駄の協奏にあわせ竜胆色が翻る]
……今年も見事な狐雲。
今年も誰かが『呼ばれる』のかしらねぇ。
[『神隠し』]
[その言葉を少女は使わず、消えた男の事は『呼ばれた』のだと口にする]
[何故と問われても、ただ、艶やかに笑むばかり]
[見上げた空には狐雲]
[朝顔模様の団扇をぱたりと一扇ぎ]
[熱気を追い払った少女は神社へ歩き出す]
[団扇の陰で浮かぶはどこか、艶めく笑み**]
[今年もお盆恒例の原稿取立てがやってきた
里帰りのついでだから問題ないだろうって編集長は気軽に言うけど
そう言う問題じゃない
報道部の先輩に頼んでトキさんの取材に同行させてもらえたのも
ネギヤさんが消えた事件の独自調査を手伝う約束との交換だ]
あの日は狐雲が出ていたから
神隠しですよ…
[言葉を飲み込んだ
下手に告げれば現代の怪奇現象として書き立てられるだけだ
そんな記事を書かれるくらいなら
エビコさんの作るネギたっぷり豚汁の特集の方がよっぽど良い
ネギヤさんほどではないにせよ僕もネギが大好物だからな
バス停の前を通りがかるとトキさんが降りてきて>>1
僕はまたしても幸福で冷たい汗を握った**]
[昨年の夏にネギヤが姿を消し、いまだに戻らない。
デンゴに食ってかかったあの日だったか]
……あ。また……
[偶然なのだろうか。
また誰か消えるのだろうか。
そして、それでも彼は怖くないと言うのだろうか。
――気になった**]
かみかくし、なあ。
御維新の頃でもあるまいに。
[ふっくらとした好男子が、ふっつりと姿を消してちょうど一年。
先ほど捻挫の湿布を取りに来た村長の孫娘が、今年は大丈夫かしら、と不安げに漏らしていた。]
──去年もあんな雲が出ていたな
[窓ガラス越しに、ふんわりと雲が浮かんでいるのを見つめる**。]
そう、グリタさんは
こちらの村のご出身でしたか。
[村役場前のバス停から、神社へ続く道。
茶革のトランクを持って出版社員と歩く。]
私は去年の―― ネギヤさん探しを
お手伝いしたご縁で、村長さんが
今年もお祭りに呼んでください*まして*。
ネギさんが来てくれないと、なかなか減らないわ。
[前年比50%ペースダウン。神妙な面持ちになるが、まだ祭りには早い時間である。
大鍋をかき混ぜると、ポケットの中身がかさりと音を立てた]
何処に……
[持っていこう、呟く言葉は、汗ぬぐう手元でくぐもる*]
[蝉が鳴く。ネギヤを探す山狩りの灯に
昼夜を違えた蝉たちの声を思い出す。]
… 自分だったら。
自分がいなくなったとき、
誰も探してくれないのは こわい
[誰が とも 彼が とも 皆が とも言わず、
弁士は眼鏡を掛けた出版社員の顔を見遣る。]
[道中には、何人かの村人とも出会う。
ひとりは、都会でもあまり見ない妖艶さを持つ少女。]
『呼ばれて』しまったら、
行きたくなるものなのでしょうか。
[ひとりは、出版社員の知人らしき、犬連れの少年。
弁士は犬の正面に屈むと、
「君でしたか」と言って鼻と鼻をぷいと合わせる。]
少年少女の大冒険 是非にいらしてくださいな。
[今年の葱汁もとい豚汁は
うんとおいしくたべられると*いい*]