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[穴の開いた壁面から、乾いた赤い日差しが差し込んでいる。
吹き込む風も乾いており、風景は見るものに閑散とした印象しか齎さない。
夕暮れ時のようではあるが、思えばいつからか、太陽の色はずっとこんな調子で赤いままで、朝も夕も無いようだ。]
―――ここへ――ば、――を…
[かつてはガラスが外壁一面を形成していたが今はその骨格を残すのみ。人の消えた街並を見下ろす高さのこの建物が、かつて街のシンボルとして栄えていた事を記憶しているものは最早少ない。]
―せると……―――はまだ――――ない
[割れた窓を通り抜ける風が、男の呟きを掻き消す。]
―砂塵の町―
[吹き抜ける風に乗り、天を舞う白い影。
それは手頃な高さの建物を見付けると、ふわりと身を翻しその屋根に降り立った。
腰を掛け、ぶらぶらと両足を揺らしながら見下ろすは、見た目だけなら自身と変わらぬ年頃の少女>>0の姿]
イケニエ、だっけ?
[アハハ、と、笑う声は朗らかとも言える響き]
バッカじゃないの?
そんなんで誰かが救われる訳ないじゃない。
[嘲笑の声は相手に届いただろうか。
どちらにせよ、少女はこちらを振り向くことなく、粛々と己の使命を果たそうとしている]
可っ笑しいなぁ。ニンゲンって。
[少女を見下ろし嗤うその背には、一対の純白の翼があった]
ーどこかの道端ー
[ここは地獄か煉獄か。草木薫る緑の大地と言われたこの土地も、廃墟以外のなにものでもなく、土埃が舞い上がり、生命の存在も希薄である。
そんな時代に相応しくない小太りの少年が一人、うつろな瞳で歩いている。]
にいさま、にいさま、お腹がすきました。
今日の夕食は何ですか?
[160にも満たない背丈に不相応な、小汚い外套をずるずる引きずって歩いている。]
[はてさて、彼の言うにいさまという存在は見当たらない。
そして彼も虚空を見ながら歩き続けている。]
にいさま、にいさま、僕を置いてお出かけなんてずるいです。
僕は、貴方のたからものなんでしょ?
さては、約束を破って僕の出来の悪い「きょうだいしまい」を見に研究所へ行ったのですね。
[そう呟き、しばらくぼーっとしていたと思ったら、突然目の前に落ちていた鉄棒を拾い上げ、怒りに任せ、そこらじゅうを叩き始める。]
にいさま、にいさま、にいさまのばかばかばか。僕だけのにいさま、あんな試験管から生まれた化け物に構うなんて!
[鉄棒が、あらぬ方向に曲がって棒でなくなった頃、やっと気持ちが落ち着いてきたようだ。]
お腹がすきました。
食べ物…、食べ物…、赤くて柔らかくて…、新鮮な…
[街をずるずる徘徊し続ける。]
ー壊れかかった ビル街ー
けふけふ…、どうして埃っぽいのですか?にいさまと過ごした家はこんなに汚くなかったのに。
[空腹を訴え続けるおなか、埃っぽい街、崩落寸前のビル群。彼の軽い頭では、いつまで経っても理解ができない風景だ。]
ごはん…、食事…、メシ…、エサ!
[ビルの入り口だったと思われる場所に、疲れ果てて動けないのか、行き倒れと思わしき人が横たわっている。]
―廃墟のビル街―
[白い翼は、風の吹くままに空を舞った。
下界の人間たちがこちらを見ていることに気付けば、殊更気持ち良さそうに。
彼らの決して届かぬ高みを見せ付けるように]
あら、
[そうして、荒廃したビル街に差し掛かった頃だったか。
他の人間よりも高い場所から、こちらを見上げる視線に気が付いた]
……地上では流行りなのかしら。ああいう格好。
[崩れかけのビルばかりでは安易に着地する訳にも行かず。
その場で旋回しながら馬銜をくわえた男を眺める]
[そこからの彼は別人と思われる動きで、行き倒れに襲いかかり、外套から取り出した肉切り包丁で襲いかかる。
血飛沫をあげ、声もなく絶命した行き倒れに神の祝福を。]
お腹が空いても、マナーは守らないと、ですよね、にいさま。
[顔についた血飛沫を手で拭いつつ、ぺろりと舐める。手を合わせて食事にありつけた感謝を祈り、じっと今日の食事を鑑賞する。
感謝の心で満ち満ちた後、包丁を使って、食事を食べやすい大きさに切り分けた。
静かなビル街に、ゆっくりゆっくり何かを噛み砕く音が響き渡る…。]
[摂食した恍惚感に満ち足りたとき、ふと空を見上げる。鳥にしては大きいが、飛行機などこの街を飛ぶ事はない。]
ふーん、なんだろう?
[おなかもいっぱいになって、少し頭に栄養が行き渡ったのか?
にいさまも見つからないし、空を飛ぶ何かを追っかけてみようと思い、肥えた体を動かしてみた。**]
[未だ若者と見える後ろ姿は、やがて去り――
見送る視線の主は過ぎった影を目で追った。
あやうくぶら下がる看板の上、立ち上がるのは
長身の…道化た服装(なり)に馬銜(はみ)噛む男。]
ん
[黒い棒状の銜枝をくっと深く噛み込みながら
片手で翻す身は、配線の絡む梁へと跳躍する。
足下では 僅かばかり看板が――ゆら、ゆら。]
[白い翼の其のひとが旋回するさまを暫し観て。
やかてふと――彼女の意識が落ちる先に気づく]
…
目をつけられたんじゃないか?
[銜の片側へ指をかけながら其の翼人へ言うと、
ざらついた声と共に黒い煤煙が幾らか漏れた。]
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