情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
―っ!
[いきなり、目の前に情景が広がる。
いくつか建っている簡易テント、トラックをぐるりと取り囲んで縄がはられ、その外側には様々な色や模様のビニールシートと、その上に座ったり立ったりしている人、人、人。そのほぼすべての視線が、トラックの中に注がれている。
トラックの中では、体操服姿の子供たちがリレーを行っていて、辺りに応援の声が響いている。]
・・・運動会・・・
[そう。確か、自分たちの子供のころには10月に行われていたその行事が、ここでは5月に行われていて、それを新鮮に、奇妙に思ったものだった。]
「みーちゃん!いけー!がんばれ!」
[唐突に。周りの喧騒の中から、「自分」の声が浮き上がる。
他の人や景色が微妙にセピア色がかっている中、背伸びをして手のひらサイズのカメラを構える自分と、その周囲だけが現実味のある、鮮やかな色彩を放っている。
と、]
「持とうか?俺の方が身長あるし。」
[紙の袋を持った男性が一人、近づいてくる。]
「結構よ。みーちゃんの姿は、私が残しておきたいの。」
[「自分」はそちらを見ようともせず、すげなく断る。
「やったー!」
トラックの中、同じように一人だけ色彩の鮮やかな、小学生の「娘」が一人を抜き去り、次の人にバトンを渡した。]
「お。さすが、みーちゃん。運動神経の良さは、母親譲り?」
[断られ、少し寂しそうな顔をした男性は、ビニールシートの外から、トラックを見ながら言う。]
「そうね。あの人は運動はからっきしだったから。で、なに?」
[用事が済んだのなら、早く帰って。そういう空気を隠すことなく、振り返らず告げる。]
「いや、頑張ってるみーちゃんにって、買ってきたんだ。よかったら、食べて。」
[そういって紙袋を差し出される。「自分」はそこでようやく振り返って受け取り、]
「雷電堂の柏餅じゃない!
ありがとう。昨日買いに行こうとしたんだけど、売りきれちゃってたのよねー。」
[いくら?財布を出しながら、尋ねる。が、]
「いや。お金はいいよ。本当に。それより、これが俺からって、みーちゃんには言わないでいてくれたら嬉しい。俺からって知ったら、みーちゃん食べてくれないから・・・」
[情けなく笑い、「じゃあ」と手を挙げて去ってゆく。]
「あ・・・」
[物言いたげに、しかし引き留めずただ見送る自分、そして、]
あー・・・相変わらず、控えめで後ろ向き過ぎるんだよなー・・・
[二人の様子を見ながらつぶやいて、そして、ふとトラックの方に視線を転じて、]
―!!!
[こちらの方に射るような視線を向ける「娘」の姿をとらえた。
しかし、過去の「自分」は、去ってゆく「彼」の方しか見ておらず、気付いていない。]
[草の生える石段をゆっくりと降りていく。
その時、あれこれと考え事に耽っていたから──それに気づくのは、一瞬、遅れた]
……っ!?
[息を切らして駆け上がってくる少年。
誰か、は見た瞬間にわかって、歩みが止まる。
立ち止まった自分をすり抜けて、少年は神社の境内へと駆け上がって行った]
いや、ま。
可能性は、考えてなかった……とは、言わんけど。
[くるり、今降りてきた境内を振り返る。
スケブを抱えた少年──『10年前の自分』の姿は、もう見えない]
実際に見るとなんつーか……。
[なんとも言い難いものを感じて、ひとつ、息を吐く。
この時代の自分。
話ができるなら、もしかしたら『ワスレモノ』が何か、知る事ができるかもしれない──とは、思えども]
……他に、なんかあるかも知れねぇし。
[ぽつり、と零れた呟きは言い訳めいた響きを帯びて。
ふる、と頭を一度横に振ると、石段を降りて歩き出した。**]
― 青海亭 ―
[海の方は気になったのだけれど、やっぱり家に帰って見れば洗濯ものがあったりするんだろうかなんて、小さな事が気になってしまって、海には戻らずに自宅へと足を向けた。]
ただいまー。
[其処にいたのは、今よりも少しだけ若い母親と―――… ]
――――…
[店の奥、少しはいったところにある仏間に、父の遺影とその前に座る学生服の後ろ姿。
驚いて、目を見開いた次の瞬間、その姿は幻の様に消えてしまっていて。
丁度自分の姿を見つめているかのような父の遺影を、代わりにまじまじと見つめた。]
そっか、もう、10年経っちゃったか。
確か、中三になる歳だったもんな。
[月日の移り変わりの早さに、思わず呟きをこぼして。
10年前の自分の姿は消えてしまったけれど、厨房へと目を向ければ其処には10年前の母親の姿が見えている。
エプロンをつけた、後ろ姿。
いつもはたくましく見れる後ろ姿も、とても頼りなく、もの悲しく、彼女にはうつった。]
……
[あの時には、自分もいっぱいいっぱいで、母の後ろ姿をあまり覚えてはいないのだけれど、今こうして眺めてみると、何だかとてもいたたまれない気持ちになってきて、そのまま店の外へと足を向けた。]
…どこに、行こうかな。
[逃げ出したい、と思った。
ここから離れたい、と。
菊子があとで合流しないかと言っていたが、もうすこし時間はあるだろうか。
あそこには、胸の奥底に仕舞って、忘れてしまいたいものがあったように思えて。
それがワスレモノなのかもしれないけれど、それでも今はまだそれを探る為に店へと戻るような気にはなれなかった。**]
・・・やっぱり、みーちゃんは、彼を嫌っていたんだ。
[それが、彼に対する自分の対応を見続けていたためかもしれないし、自然とそうなったのかもしれない。それはわからないけれど。
証拠だとでもいうように、踏み入れた靴箱の前、「自分」と「娘」が現れる。]
[運動会の帰りなのだろう。運動場には屋根だけのテントが置いてあり、白線が鮮やかに残っていて、あたりには、先生たちが片づけに忙しく動いている。
それをみながら、]
「ねえ、おかあさん。」
[体操服姿でランドセルを背負った娘が、不安そうに「自分」の袖を引く。]
「なあに?」
「再婚なんか、しないよね?」
[その言葉に、「自分」が一瞬息をのむのがわかる。それを見て、「娘」の顔が、いっそう不安そうになるのも。]
「大丈夫。あなたのお父さんはあのお父さんだけよ。これからも、絶対変わらないよ。」
「ほんと?ほんとうに?」
「うん。大丈夫よー。・・・誰かに、何か言われちゃった?」
「ううん。違うの。大丈夫。」
「そっかー。」
[そして、お互いホッとしたような、それでもどこか釈然としないような、疑っているような表情のまま、]
「て、つないでかえろっか?恥ずかしい?」
「ううん。大丈夫。」
[大丈夫と相手に言い聞かせるように、ぎゅっと手を握って、]
「そうそう、雷電堂で柏餅買ってきたんだー。みーちゃんがんばってたから、ご褒美。家に帰ってたべよっか。」
「・・・うん!」
[校舎から外に出ると同時に、薄くにじんで消えて行った]
[10年前の街中を、うろうろと歩き回る。
当時は、何処によく行っていたのだっけ…、少しづつ、少しづつ記憶と糸を手繰り寄せる様に。
それでも、何となく身体は覚えていたのだろうか、小さな街の図書館の前に立ち止まると、ゆっくりとその屋上付近を見上げた。**]
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了