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―中庭前―
[例えばだね。
苦しい。悲しい。辛い。
なんでそう苦しくて悲しくて辛いのか。
絶体絶命で孤立無援で、それはそれほど苦しいのか?悲しいのか?辛いのか?
でも諦めきれないやつがたくさんいる。それがきっと強さなのだろう。
などと、冗長な思考。
例えばのことでしかないのだ。本日寝ている間にあったイロイロなことなど関係はきっとない。
空は好天、祭りは上々に締めて、七夕の影響からか恋人たちは楽しげに、心が素敵に満ちてるものたちはきっと無敵でもあるのだろうか]
[でも]
一期の栄は一盃の酒、四十九年は一酔の間、生を知らず、死また知らず、歳月またこれ夢中の如し
[一瞬に願うものはなんであるか。]
人間五十年…下天のうちにくらぶれば…夢幻のごとくなり…一度生を受け…滅せぬ者のあるべきか…
[昔の人もいっているではないか。生きたものはいずれ死ぬのだと]
[扇子でもあろうものならば舞いでもしたであろうか。
でも手にもつのは短冊。
でも、そこには文字は書かれていなかった。
でもそこには願いがちゃんとあったのだ。
文字を書く必要がなくなるような…願い事がなくなるようになるよな日々を
そうすればきっと…
思考を止めて鼻で笑い、その短冊をビリビリと破り捨て、夜の風に散りばめて流す。七夕ももうおしまい。
これからは*暑い夏がくるのだろう*]
[瞼を開くと、短く苦笑した]
スマン。
ぽっぽ焼きくらいなら、食べられる時間。残ってると思ったんだけどなぁ。
カミサマは、思ったよりケチだったみたいだ。
とびきりの弁当か。そりゃ食いそびれて残念。
なんなら、後から持ってきてくれてもいいんだぜ。
何十年後になるか知らんけどさ。
[そこで一度口を噤んで、真剣な表情でワカバを見詰めた]
[目の前でくるくる変わる表情]
[ふくれっつら]
[柔らかい微笑み]
[ああ。どんな表情も可愛いって思ってたんだっけ。伝えたことはないけれど]
[意識がどんどん遠くなる。
教室一杯に広がった満点の星空が、身体を透かして見えそうなくらいに。もう身体を留めていられない。
最後の力を振り絞ると]
それじゃ、また後で。
……逢えたらいいな。
[それきりだった]
[中庭の笹の葉。
ひときわ高いところに括りつけた短冊が、はらりと落ちた。
表にはインターハイ優勝!
裏には目立たないように、短冊と同じ色で書かれた言葉。]
――もう一度だけ。ワカバと会いたい
しかし神さんも思い切ったこと、
決断しましたなぁ。
たった一日だけ、生きていた世界に戻すって。
――酷じゃ有りませんの?
[七夕の夜、約束の大門の前で魂の還りを待つ。
少しだけ体力を奪われたもの達は帰し、
約束の時間までもう少し。
果たしてふたつの魂は無事戻ってくるだろうか。]
あ、そうそう、神さん。
あの二人が戻ってくる前に。
自分、あんたさんに無理を承知でお願いした事、
あるんですけどー…。
[茶目っ気を湛えた口調とはうらはら。
視線は至って真剣なもの。]
ひとつ、七夕の願いを聞いてくれませんか?
今から還ってくるふたり…
ナオさんとヤスナリでしたっけ?
あの二人、自分の存在と引き換えに。
元に戻してやってくれませんかねぇ?
いや、無理承知で言ってますし、
本人達が望まないなら、
それはそれで良いですけどね。
ただ――
[手渡された髪飾りをきゅっと握り]
自分、彼らの願い事、叶えてやりたいんですよ。
駄目なら一年に一度だけ。
向こうに還られる様に。
だめ、ですかねぇ?
[へらりとした笑顔で、懇願した**]
うん、よかった。
ホント、よかったー……
[短冊を追いかけるマシロを不思議そうに見る]
何て書いたんだ?
[次々に響く花火の音。
頭の奥で何かが焼きつくような感じがして瞬いた。
県展に出ていた書道部の女の子のこととか、ひときわ背が高かったバスケ部の男子のこととか、そういう他愛もないある日の記憶が、ふとよみがえる*]
[初めて自分に向けられる、真剣な表情に。
逃さぬようにのばした手は星空を掻いた]
……あ。
[抱き留めたのは温度のない宙のみで。
何もない腕の中を見つめる。
唇をかんで、そっと目を閉じた]
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