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さぁてぇ……そろそろ戻らんと、さすがにまずいな。
[帯に挟む前、ちら、と見やった時計の表示にそんな事を呟いて、腕を上に上げて身体を伸ばす]
んーじゃあ、俺、店戻るわ。
ぼちぼち手ぇつけんとまずい仕事が待ってるんでな。
[腕を下ろしつつ、軽い口調でそう告げて。
子供たちにも、今度はデッキ持ってくるからなー、なんて呼びかけてから、またからころり。
下駄を鳴らして歩き出す。*]
[暫く水面から目を外せないままでいたが、さっき見えた景色が再び現れることはなかった]
…やっぱ、気のせい?
それか蜃気楼だったのかな。
…うん、そうかも。
こっから海ってそう遠くないし。
[蜃気楼がどうして見えるのかは良く知らないけれど、幻覚よりは若干心証が良く思えて。
無意識に自分を納得させようと思考を声に出しながら、此処から一番近い海のことを思い浮かべた。
自転車で三十分位の距離だから、子供の頃は良く行っていたけれど何時の間にか行かなくなって。
友達に誘われても断るようになったのは何時からだったか]
…そういえば、どうして行かなくなったんだっけ。
[思い出せないな、と小さく呟いた声は思いのほか大きかった**]
はい、これでどうかな?
ピンクが乗るように肌の色、ファンデで調整してるから、化粧直しはこまめにね。
え?祭りに出張かい?
はは、化粧師の夜店てのも悪くないかもね。
[こんにゃろ、無料で化粧直しさせる魂胆だな?
いまどきのじょしこーせーはちゃっかりしてやが...る?]
え?
[ちょ......なんだこれ?]
[まてまて、有り得ねーから、鏡の中に海岸と、うさ、ぎ...?]
.........
...............
あ、いや、ちょっと疲れ目かな。
[目を擦ったら、わけわかんねー光景は消えた。白昼夢かよ?笑えねー。
俺、そんなにストレス溜まってたっけ?]
かーさん、休憩行ってくる。
[疲れてるんだ、そうに違いない。今日はくそ暑いし、くそ忙し過ぎた。
店の冷房の効きは悪いし、喉も渇いた。
速達なんて......来るし]
『出掛けるなら、ついでに夕飯買ってきて。今日作ってる暇ないわ』
んー、わかった。ほか弁でも見繕ってくるよ。
[チリン...]
......外もあっちー、て当たり前か。
[確か海岸通の方に、新しいカフェが出来たとかって、お客が噂してたっけ...行ってみるかな?*]
─ 高校の音楽室 ─
[ヴァイオリンの弓をおろして大きく息を吐く。
集中が途切れると、セミの鳴き声が気になった。
アブラゼミだ。
夕刻時や夜間に鳴くことでも有名なこのセミの声が、
初音は嫌いだった。
あの事件を思い出させるから。]
――……。
[窓辺へと近づくと、初音はカーテンを引く。
窓を閉めたままでもこの音量だ。
開ければさぞ五月蠅いだろう。]
[明るいチャイムの音とともに下校を促すアナウンスが流れる。
思わずスピーカーと壁の時計を仰ぎ見た。
外の明るさに惑わされるが、アブラゼミの大合唱を考えれば、
とっくにそういう時刻なのだ。
初音は手早く弦と弓を緩め、ヴァイオリンケースに仕舞う。
忘れ物がないことを確認すると、音楽室を出て鍵をかけた。
毎日放課後に練習して2年半。
音楽教諭もいちいち確認したりはしない。]
[刹那の幻覚はその時限りで、ウミは日よけの下でただただ海を、灯台を眺めていた。
毎度思い起こすのは灯台守として過ごした日々。
出会いと別れを繰り返した懐かしい記憶が甦る]
…あの子達はどうしておるかのぅ。
[夏になれば街に住む子供達が海へと遊びに来た。
灯台守をしながら浜辺の管理も任されていたため、幾度か顔を合わせる機会もあった。
そういえば海の家はまだあるのだろうか。
そんな疑問を抱くほど、ここ数年は海岸へも足を運べていない]
本当に、年を取ったものだ。
[ふぅ、と疲れたような溜息が零れ落ちる。
時に抗えなかった悔恨が燻るかのよう]
─ 校舎→校門前 ─
[校舎の外へ出ると、ねっとりした熱気に包まれた。
海の近くの町なのに、暑さが和らいでいる実感はない。
ヴァイオリンケースと学生鞄を提げた初音は目を細め、
急ぎ足で校門を目指す。
校門前の桜の木も、この季節にはただの広葉樹にしか見えない。
足元の葉影に気を取られていたせいか、
門から一歩足を踏み出した瞬間、
波が目の前に迫っていた。]
えっ…………?
[反射的に後ずさる。
と、肩が門柱にぶつかった。]
[振り返ると、いつもの学校だった。
2年と数か月通い慣れ、見慣れた門柱と、門扉と、桜の木。
視線を戻すと、海岸も波もどこにもなかった。
目の前にあるのは、舗装された普通の通学路だ。]
……え……ええ?
[ヴァイオリンケースを抱きかかえ、初音は視線をさまよわせる。
暮れゆく空を眺め、校舎を振り返り、通学路と周囲の景色を見比べて、
足を運ぶ。
茫然と数歩進んで気づいた。
波の音がしなかった、と。]
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