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−庭・スイ−
[庭に桜と笹のそばにひょろっとした少年が居た。
手に短冊を持ち、眉間に皺を寄せてなにやら唸っている]
よし。
[気合いを入れて鉛筆でぐりぐりと書き込むと、笹に飾り付けた。その手に白いもの落ちてくる。
見上げると雪が降り始めてきた。
薄手の白いシャツの両肩を寒そうに抱えて居間に入ってきた]
寒いね。この季節はこたつが無いとやってられないよね。
[背中を丸めてこたつにはいると、幸せそうに目を*細めた*]
― 夢 ―
「なに?按摩の婆が死んだと?」
「トシだっただよ。”ちか”はどうしますだ?庄屋さま」
「もう数えで六つなのだし、庵も畑もある。たまに様子を見るくらいで構わんだろう」
「”ちか”、もうお前さんは他人の手を煩わせずとも生きていけるだろう?」
ばあばは・・・どこ・・・?
「婆はもうおらん。”ちか”はいい子だろう?」
・・・うん、いい子。
「なら大丈夫だな」
あ・・・庄屋さまぁ・・・。
さむい・・・ひとりは、さびしいよ・・・。
― 夢・了 ―
[自分の涙の流れる感覚で、目が覚めた。
目を開けた拍子に涙がもう一筋頬を伝い、耳元に落ちる]
なみだ・・・。
[悲しい夢を見た。
でも、内容を良く覚えていない。
ただただ寂しさだけが後に残り、不安を掻き立てる]
さびしい・・・さびしいよぅ・・・。
[しんとした部屋の中、天井の木目から逃げるように両手で顔を覆い静かにぽたぽたと涙を零す。
いくつもの染みが、枕に刻まれていった]
[ひとしきり泣いた後、少し落ち着いてみると、かすかに聞こえてくるものがあった。
規則的な寝息の音]
・・・アンちゃん・・・。
[起き上がりその発生源を見つけると、さらに熱いものがこみ上げてきた]
かんびょう、してくれたの?
うれしい。
でも、風邪引いちゃうよ。
[自分の布団を引っ張って、アンの上に被せる]
[おなかの調子が回復しているのを感じて、ほっとして]
かわや・・・。
[そっと部屋を出て、お手洗いへと移動する。
その帰り、居間を覗こうとして足が止まった。
”なにか”が失われた感覚]
いやぁ・・・。
[再び急速に寂しさと孤独感が湧き上がる。
その場から逃げるようにして部屋に戻ると、アンにしがみつくようにして布団に*潜り込んだ*]
[気配を感じて、頬杖を突いたまま、視線だけを動かした。
微かな声は聞こえない。立ち去る気配。瞑目する]
煙草でも、吸ってこようか。
[*白衣を翻して、居間を後にした*]
-スイ-
[ユウキに話しかけられ、一瞬びくりと身を緊張させる]
たたた、ただいま……とうさん。
[しばしば間をおいて、頬を赤くしながら答える]
こたつ、いいよね。
みんなで暖まれるから、おいら、こたつ好きだよ。
[九九を口ずさむミナツにつられた]
ににんがし、にさんがろく、にしがぺち、にごじゅー……。
[最初は表情が強ばっていたが、だんだんとやわらぐ]
しちいちがいち、しちにじゅーし、しちさんにじゅーいち、しちしにじゅーはち、しちろくごじゅーし、しちくろくじゅーさん。
[ギンが九九に合わせてにゃあにゃあと鳴いた]
[ギンはみかん箱に突っ伏したミナツのまわりを心配そうにくるくる回り、背中をてしてしと叩いた。
スイは笑みを浮かべてそれを見ている]
[スイはいつの間にか、こたつに潜り込むように、膝を寄せて丸くなり身を縮込ませている。
額には汗。眉間には深い皺。目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。
わずかに開いた口から小さな言葉が漏れる]
ちが……好き……大好きなんだよ!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
もう、誰にも近づかないから……だから……ごめ……。
[誰に向けたものか分からない、無数の謝罪が繰り返される*]
[布団の中で、一人目を覚ます]
哎!
[とっさに、どこにいるのか?何をしているのか?わからずに、心細い声を上げるけれど。この家の、賑やかな面々を思い出すと、ホッと安心したように笑った]
我想吃米飯ー。おかーさん!
お腹が空きました。
[パタパタと廊下を走って居間へ]
あれ?スイが居ます。おかえりー?
[火燵で丸くなる人影に声をかける]
ん?寝てますか?……寝言?
[謝罪の言葉に、困惑しながらも、猫にそうするのと同じように、スイの背中をそっと撫でた]
[窓の外は雪が降っている様で]
漂亮……。
でも、寒いです。
あ。ミナツー。風邪ひきますよ?
[部屋の隅にあった小さな毛布をミナツの肩にかけると、隣に座り込んで。そのまま、再び*うとうと*]
うう、にゃにゃんがにゃあ、にゃんにゃにゃんがにゃあ……
[みかん箱の上、数字がぐるぐる回る夢。降り積もる雪から微かな桃の香り]
んあ?……パオ?
……おーい、風邪ひくぞ
[目を覚まし、隣でまどろむパオに手を伸ばすと、ずるりと肩から重みが抜ける感覚。かけられていた毛布に気づき、目を細め。パオの頭に積もる雪を掃い、そっと両腕で抱き上げて炬燵へと運ぶ]
うう、身体、冷えちまった。風呂にでも……ん?
[スイのいる辺りに視線を泳がせ、首をかしげ。スイの姿を認識することはなく、背中にギンの足跡をつけたまま、*風呂を沸かしに*]
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