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[がらぁん、抱えていた薪が、床に落ちる。
響く大きな音で、ハッと、我に返り。]
[今のは、いったい。]
悪ィ、
[瞳の奥の熱も、痛みも、既に無い。
一度、手を目元に置いてから、
床に散らばった薪を拾い集め、暖炉の近くに置く。]
[問いかけへの返事は無かったので、気のせいだったのかとやり過ごしていれば調理中に聞こえるミハイルの聲。
どこから聞こえているのかは分からないが、
少なくとも見える範囲にはいないようだ]
……そうみたい。
私も全然気づかなかったわ…。
[今まで苦手意識を感じていたため、この状況は予想外だった。
もう少し懇意にしていれば早くに知ることが出来たのだろうか。]
私、こうして仲間に会うのはとても久しぶりだわ。
[人にまぎれていた間、仲間に会う機会などそうそう無かった。]
[厨房へ向かう途中に頭の中に届く聲は、
ドロテアのものでも無く、イルマのものでも無く。
その辺りで漸く確信する。
この会話を行える対象は、彼女のみであると。]
昔群れてた事はあるが、俺も久しい。
[まさかこの地でも、似た存在を見る事になろうとは。]
ドロテアは、寂しそうだったからな。
俺が誘ってやったよ。
[マッチくらい、暖炉の側にあるだろう。
探せばすぐに見つかったそれを手にし、
手馴れた手つきで暖炉に火をつける。
そろそろ料理も出来上がる頃だろう、
食事の間くらいは、暖炉に火が灯っていてもいいだろうと思ったのだが。
細いものから順に薪をくべていけば、
次第に火は大きくなり、寒さも次第に薄れていく。
まだ濡れたままのパーカーを、
火が飛ばない程度の場所に置き、息をついた。]
……… 、
[先ほどの事を思い出すかのように、指が瞼に触れる。
無言のままにソファに座り込み、目を閉じた。]
タオルで拭いたらどうだよ。
[腕で目を拭うイェンニの様に呆れた声を漏らす。
落胆の露にするイェンニをよそに、
調味料を肉野菜炒めに適量振りながら]
祭が台無しになっちまったせいで、
塞ぎ込んでるのかもねえ。
俺じゃなくてイルマ辺りでも声かけりゃ出てくるかもな
[後で一緒に行ったらどうだ?と続けながら。
味を見る目的で小皿に肉の切れ端と球菜を取り。]
[仲間と知れば、自然とミハイルに抱いていた警戒は消えていく]
あなたもお久しぶりなのね。
私はずっとおばあちゃんと二人きりだったわ。
[その祖母はもういない。
かなり昔に、祖母は人間の手によって「退治」されてしまい
それからずっと…は1人きりだった。]
あら、お誘いを?
あの子ずっと1人だったから、喜んだでしょうね。
[可哀相なドロテアちゃん。
まるで一人ぼっちになった私みたいで気に入っていたのだけど。
ミハイルがこうして誘うほどだ、少し1人にさせすぎたようだった。]
[祖母の膝の上で、何度も聞かされた話。]
[おまえの瞳は、まほうの瞳。
良しも悪しきも、すべてを見通すふしぎな瞳。]
[頭を撫でながら話してくれる祖母の事が、
とても、とても大好きだった。
当然、自分を邪険に扱う両親よりも。]
[おまえは呪われた子なんかじゃないわ。
わたしのかわいいかわいい孫よ。]
[――この瞳は、]
[薄らと開かれた瞳が一瞬、色を変える。
それを見ていた者は誰も居ないだろうけれど。]
………ふしぎな瞳、なぁ。
[昔はずっと祖母の話を信じていたが、
今となってはただの作り話だったのだろうと思う。]
[ちいさく熱を持つ瞳の奥。それを、無視して。]
[料理が出来た際には、当然のように手伝うつもり。
暖かい料理を食べる事が出来たのならば、
乾きかけのパーカーを手に、
適当な空き部屋へと入っていった。
へっくしょい。
ひとりきりの部屋に、くしゃみの音が響いた**]
そうかい。
おばあちゃんも、同じだったのか。
[彼女――イェンニはいつから人をやめたのか。
否。己のように、かつては人であった生業と
同じとは限らないのだけれど。
精はこの世で多様に存在する。
どう生まれたのかなどは、一様に語れるものではない。]
ああ、きっと家族のところへ行けるよ。
/*
トゥーリッキなら大丈夫…だよね…?
いや、イェンニさんにしたほうが…
いやいやいやいや、イェンニさん危なくね?
ヤバイなあ、これ狼引いたらクソって言われるでぇ…
でも……あの子がいなくなったら寂しくなるわね。
[それに、少し羨ましい。
私はもうおばあちゃんに会えないのに。
彼女はあそこに行く事によって失くした者達と会う事が出来るのだろう。]
私もおばあちゃんに会いたいわ…。
[…はミハイルとは違い、ナッキとして生れ落ちた。
祖母について人の世を彷徨い歩き、生きる術や、人間としての振る舞いを教えてくれた。
長い間、ずっと一緒に、そうして過ごしていたのに。]
私たちは、何も悪いことしてないかったのに。
[ただ、人ではないからと祖母は殺され、骨の場所もわからない。
その亡き祖母の姿を思い出せば、涙を流す。
表向きはタマネギを切っていたため、
事情を知らない者にはその所為に見えたはずだ。]
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