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わからなくは――為らんよ。
影響を及ぼし合いはするけれど。
[しろい呼気が流れる間を置いて、応えを昇らせる。
外気につめたい耳奥へ聴く相手の声をなぞりながら]
意思を押さえつけて操ること。
意志を抑えつけて操ること。
…すこし、違う。あたしがするのは前者だけかな。
わからないのが、厭になることがあるのかな。
[語尾を持ち上げない問い。
柔くはないが、乾いてもいない声音。]
…昨夜…
あたしは、お前を見てはいなかったけれど。
聴いていたよ。息遣いを*
[あまりの厳寒に声を常より大きくするも億劫で、
蛇遣いはカウコのほうへさくりと歩を踏み出す。]
…
[村内で見知る、人慣れしたトナカイを呼ぶらしき
彼の姿が珍しく――歩を寄せる間、その所作は概ね
意識に入って。…ぐず、と鼻先に濡れた音が立つ。]
…
厭なところに来合わせてしまったらしいか。
[詮無い声をかけるのは、彼がトナカイを放した後。]
[かけられた声にゆるりと視線を向けるのはトゥーリッキへ。
その内容が頭に沁みるのに一拍。]
――は?
熱でもあるのか。
["厭な所"と言うにはわかりにくくも返す答えは軽口。
相変わらず鼻をすすっている姿に目を細めて]
――これから戻るけど、来るだろ?
寒いし。
[来いでも来るかでもなく、肯定気味の問いを投げて]
少し、見えたのでな。
[とだけ蛇遣いは語尾上げるカウコへ言う。
カウコの様子を眺める間、別段身は隠さなかった。
ひとの遠目に、当然乍書簡の内容は読み取れない。
香の名残も、冷えて濡れた鼻腔には言わずもがな。]
むしろ熱でも出ればいいんだが。
…ああ、邪魔させてくれるといい。
[とん、と喉へ指を置いてみせるのは酒の強請りで]
――そうか。
まぁ、道徳的にちょっと悪いコトをしただけだ。
[見えた、と言うには常と変わらぬ、変わらなすぎる顔でけろりと返し、――考えるのは潔白を記された男のこと。]
熱出したいのか? 変わってんな。
……何故を問うよりは、酒かな。
[相手の仕草に返事を言葉と親指で肯定を返し、そのままほど近くに在る家へと戻り、招く。
室内に火を入れてから酒の準備を始めるついでに毛布一枚相手に投げて。]
……――どうすっかね。
[一言に込めるわかりにくい追悼。供儀の娘の名には触れず、けれど一つ変化したことは反映させ。やがてウォッカとグラスと持って戻れば相手に勧めるまま。]
…
顔に見合った所業、ということにしておくか。
[強いて問い詰めることなく、カウコへ真顔で言う。]
あたしにわかるのは、お前が読んだものを
すり替えなかったらしいこと、くらいだな。
ん… 熱は、分けるぶんが、入用だからな。
[ほと、と片手は首へ巻く冬眠中の大蛇へと触れる。
相手の小屋で落ち着く頃には寒さに縮こまっていた
とぐろもやや心地良さそうに緩むもあるようで――]
……お前な
[口調が責めるも戯れに留まり、相手が見たものに僅かに笑むばかり。問われぬことは自ら話すに至らず]
――熱を分ける、か。
そりゃ確かに、ほしいかもな――熱。
[酒を一口含み、こくりと喉を鳴らし、世間話のように。]
マティアスに面白いこと聞かれたよ
「狼」に語りかければ狼使いに届くのかって。
知らんって返したけど――何を語るつもりなんだか。
[そのあと落とした約束については触れずも出来事から興味深い部分だけは抜き出し。]
[使者の男は、容疑者でない村の者達にも、ドロテアの件を伝えていった。確信はせずとも、既に察していた者は多いだろう、彼らの瞳には、哀憐と、無念と――男に対する疑心も微かに含まれていたか。
そのうちに、ふと立ち止まり]
……血を以て、血を制する事になるのならば。
[レイヨに向けていた言葉を、反芻するように呟き、無意識にか、眼鏡に手を伸ばそうとして――静止した]
……
[一頭のトナカイを視界に認めたために。長老がいるだろう方向を目指すそれを、見据え]
[どうもね、と礼だかあいさつだか定かで無い声で
毛布を受け取り、端を胸元で合わせぐるりと被る。]
…どう"在る"か、…だな。
[見えた変化は些細とも言えず…渡されたグラスを
一度膝元で落ち着かせる。死した者を悼むために。
――思案の間は暫し。]
…情が入らない自信は、ないな。
つい先刻だってイェンニを探していた。
だが、"やらない"はもう無い話だ。そうだろう。
― 外 ―
…………
[曇る眼鏡をはずしにつるに歯を立て、礼を籠めて頷きアルマウェルから受け取った狼の毛を、小屋の前で滲む紅いオーロラに透かし見る。暫くはそうしていたが、眼鏡のつるから口を離し、供犠の娘を喰らった獣の一部を舌に乗せ―――呑んだ。
キィキィキィキィ…―――溶けぬ雪と氷に、三度も長老のテントへ向かう二本の足跡は徐々に重なる。道の繋がる先にトナカイは向かう方向が同じらしいのに、車椅子を止めた追いついてくるのを待つ]
………長老に届け物ですか?
[寄り来る姿に荷を見ればトナカイ相手に声をかけ喉元をくすぐるも、中身を改めはしない―――開いたところで文盲では読む事も叶わないが。ただ獣のにおいに紛れて嗅ぎ取れる幽かな香りには覚えがあり、トナカイの腰周りを摩り労いながらヘイノの住まいの方を見た]
…お疲れ様です。
[彼がいつから自分を見ていたのかはわからずも、アルマウェルの姿に気づくと目礼。トントン、とトナカイを促すともなく最後に軽く首を叩き手を放して、かける言葉は彼だけでなくトナカイへも含む響き]
……うん。居るぞ
[戯れへの応えも、他愛無く。
必要かもしれない問いを省くことへは、
こちらから大まかなところを添える。]
あたしのことを、狼遣いじゃないと
言ってくれた者がいるらしいんだが…
まじないだか評価の一環なんだかもよく判らん。
そんなこともあってな。確実な情報を待ちたい。
[レイヨの姿も認めて、目礼を返す。手を離されたトナカイは、二人の様子を窺うように、少しの間そこに留まっていた。ボォ、と、掠れたような、喉を鳴らす音が響き]
……届け物か。
[そのトナカイの荷う物を見て、呟くように。確かめようとはせずも、知れない中身と向かっている先の事は、些か気にかけたようだったか]
[カウコが口をつけるグラスへ、
微かにこちらのそれを触れさせて揺らす。
振動の余韻ごと含む酒は、容赦なく澄んだ熱。]
「狼」に語りかければ、か。
"49"が、な。
…試してみるに越したことはないんじゃないか。
近づければの話だとは思うがさ。
ああそう言えば――
その話、ウルスラ先生にも
一度してみたほうがいいかもしれんぞ。
[耳傾ける間、知己は時に笑み、蛇使いは飄然とか。
やがて窓からイェンニの姿が見えて、カウコに
旨かった、と添えてグラスを卓へと置く頃には、
蛇使いの頬と首周りに巻く白蛇とのいろの差が
傍目にもわかるほどにくっきりしているはずで*]
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