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青空に願いを
[爪先に赤が残った両足で、立つ。
誰も居ない、屋上の隅。
私が着ているのは簡素な寝間着ではなく
鮮やかな朱色のワンピース。
スカートの裾が優しい風を孕んで膨らむ。
頭上には美しい青空。
風が運んでくれたアネモネに、手を伸ばす。
そして一緒に、柔らかな風の流れに乗って、
私は、空を駆ける。**]
― 昨日 夜 ―
[今日はお風呂の日ではない。
夕食を終えると、部屋の洗面所で歯を磨く。
といってももうそんなに残っていないのだが。
こまごまを片付け、ベッドに向かう。
と、くるりと向きを変え、机に向かうとお手玉をとった]
よしと
明日はロビーに行きましょう
綺麗な夕焼けが出ていたからねぇ
きっと明日はすっきり晴れるよ
[2つのお手玉を一人でぽんぽん、とまわす。
あずきが零れ落ちる気配はない。
なかなか良い出来だ。
ふふふ…と笑うと、お手玉は机におきなおし、そのまま床に就いた]
[横になると、いつものように、視界が暗くなっていく。
いつものように、隣の老人が扉をたたく音がする。
でも、音は遠く、眠りかけの身体はさらにずっと深いところへ沈み込もうとする]
(あれあれ… いつもと何だか違うねぇ)
[暗い空間を鳥のように滑空しながら落ちていく感覚がする。
その空間の、向かう先の深いところに小さな明るい空間が見えた。
いつものおじいさんの夢…?
いや、あれは…]
満州の…カフェだよ…
[あっという間にずいぶん近くなった建物の、格子の窓の隙間から中が見える。
ウォルナットの机と椅子の数々。
入り口にあるコートかけ。
大きなストーブと天井から下がる丸いライト。
二階から木の階段をとんとんと降りてくる音が聞こえてくるようだ。
人が居る?
空間から墜ちるように身体が店の入り口に向かう。
扉ががらんがらんという音を立てて開き、頭から飛び込むように明るい空間に滑り込む。
視界が光で真っ白になった**]
[今日も、母の病室へと歩を進める。
けれど501号室の名札は外されていた。
ナースステーションへ声を掛けると
母は昨夜、意識レベルが著しく低下し
集中治療室に移動になった、という事だった。
医療器具の音色が微かに響くその部屋を訪れる。
眠ったように瞼を閉ざした母――]
母ちゃん、……かァか、……、
[声を掛けても、頬を擦っても、
母は目を開けることは、なかった]
―手術室―
[普段着ている入院用のパジャマではなく、手術用の服を着せられ。
涙ぐむ両親に見送られながら、手術室へと向かった。
もしかするとこれが最後になるかもしれない。
そうわかっては居ても、気の利いた言葉など出ては来ず。
「だいじょうぶだよ」などと根拠も捻りもない言葉と笑顔を向け、小さな体は手術室へと運び入れられた。
白くて、よくわからない機械がたくさんある、変な部屋。
まじめな顔をしている見覚えのある医師や看護師に、ゆるやかな笑みを浮かべ。
全身に麻酔をかけられて、意識は混濁していき。
――二度と目覚める事はなかった]
[暫くそうして、何もできずに母の傍に佇む。
集中治療室には、妹がやってきた。
顔を合わせるのは十数年ぶりの事だった。
妹は銀行家の元へ嫁ぎ、
男が金の無心に訪れても「二度と来るな」と
一蹴するほどの気の強さを持ち合わせていた。
『アンタみたいな貧乏人が兄貴だなんて
恥ずかしい』
これが、彼女の捨て台詞だった]
[だから、何を話していいものか悩んだ挙句、
『かァか、死んだように寝てるぞ』
そう巫山戯たら、見る間に彼女の顔が怒気に染まった]
『母さんはまだ死んでないわよ!!』
『そんなことばかり言ってるから
奥さんや子ども達に逃げられるのよ!!』
[ヒステリックに叫んで、泣き始めた妹を
看護師が宥めていた]
ああ、そうだな、そうだなァ
…俺ちは阿呆だからなァ
[数年前なら、彼女へ食って掛かっていただろう。
けれど自分にはもう、そんな気力はなかった。
集中治療室を後に、足はふらりと階下の中庭を目指す]
中庭
[途中、休憩室で見掛けた
子ども用の色鉛筆とスケッチブックを借りて
絵を描くことにした。
油絵の道具はとうに売っぱらってしまって
今では家にも、100円均一で買った
スケッチブックと鉛筆くらいしか無いのだ。
悲しい気持ちから逃避する為、白い画面に描くのは
病院の中庭の光景。
正面の見事な櫻の木、今は葉もなく寂しいけれど
そこには、薄桃色の花弁を咲かせた樹を描いた]
[これならば、あの若い先生が
彼女に見せる写真の代わりに、なるかもしれないと。
桃色の樹の下には、車椅子の女性と語り合う
スーツ姿の男性を描いた。
目で見た光景ではない。
其処にそうして佇んでいたら
絵になるだろうとの演出だった。]
――あの若先生、名前なんつったけなァ…?
[完成した絵を渡そうと思ったが
相手の名前を聞いていなかった。
そのうち逢えるだろうと、次の絵に取り掛かる。
同じ中庭、今度は雪の夜の光景だ。
樹の横には大きなゆきだるまを描き
その横に、ゆきうさぎを嬉しそうに両手で抱える
ルリちゃんを描いた。
そして、それを穏やかに見つめる――品のある女性。
老女を描く心算が、何故か若い女性になってしまい。
空には、藍色の空に黄色の鉛筆でオリオン座を描く。
何処か、暖かな絵になったものだと、自画自賛した。]
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