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[何かのタイマーなのか、長い時が過ぎたのか、立体映像は、大空を羽ばたく鳥の姿を映し出していた]
とり。
ミナツが描いていた──レンが見たがっていた景色。
[呆然と見つめる]
これは過去。
誰かにとってとても大切なもの?
大切だから、それが失われると悲しくて、死にたくなる?
私には……世界が美しく見えるのは。積み重ねた過去はないから……なのかな。
津島要の記憶より、いま目が覚めてからのことのことの方がつよい。
いつか──ここに在るだけの思い出だけでは、生きていけなくなるのかな。
[胸元に手をやり、かさりという手応えを感じた]
?
[出てきたのは1通の封筒]
プレーチェが、獏に──アンからの手紙。
東海林 杏。
[ユウキの呟いていた名前を思い出し、震える指で封を開ける]
『杏へ
おはよう。
きみがこの手紙を読んでいるということは、私は隣にいないのだろう』
[手紙はそんな書き出しから始まっていた]
[時折乱れがあるけれど、意志の強そうなしっかりとした文字で、杏が現代の医療技術では治癒できない病であること、未来に希望を託して冷凍睡眠に入ったことが記されていた]
『きみが健やかで幸せであるように。
父より』
[読み終えて、反射的に手紙を握りつぶそうとしたけれど、首を横に振り、ゆっくりと封筒に*戻した*]
……優しい、やさしいひと。
そうだよ。空は―――広いんだ。
[瞳を閉じたまま、響く声に応える。それはプレーチェへか、ペケレへか、それとも…*]
きっと。誰かが生きて欲しいと願ったり、自分が生きたいと思う人が、ゴールドスリープについたんだ……。
そんな人を食べた……んだね。
[くぅとお腹が鳴った]
あぁ……お腹すいた……。
ねぇハニー。
アンもプレーチェも生きたかったろうに、私は食べたの。私が生きるためには、必要だったの。
たぶん……彼女たちが生きていたなら、私は壊れていたと思う。それはどうしようもない。
だけど、死を望む気持ちが分からない。
過去ってそんなに素晴らしいものなのかしら……。
私は食べられるし、2人も向こう側に行けるから、めでたしめでたし、でいいのかしら。
私は悪くない?
ハニーは甘いね……。
──獏ならなんて言うんだろう。な。
難しいこと。言うのかな。
[そのままぼんやりと、立体映像を眺めている。]
[縁日の情景や、圧倒的な迫力を持つ舞台が映し出されている*]
[ペケレの傍らを漂って、ゆるやかに、ゆるやかに、ぐるぐると踊るように動き回る]
おいしかった?
[他人事のように尋ねてから、声が届かないことを思い出して*苦笑した*]
[スイッチを押しても、ひつじはもうメロディを奏でない。
ひっくり返したぬいぐるみをまさぐる]
……“カナメ”。
あなたの名前?
[底面に、丁寧に書かれていた文字を発見し、読み上げた]
誰の字だろう?
[そっと文字に触れる指先は、“記憶”を求める]
それとも、あたしの名前なのかな。
[ちり、と乾いた*鈴の音*]
……Libera me, Domine, be morte aeterna,
in die illa tremenda:
quando caeli movendi sunt et terra:
Dum veneris judicare saeculum per ignem.
[それからふらりとその場を離れる。緩やかに歌いながら、ビオトープの方へと歩いていって]
Tremens factus sum ego, et timeo,
dum discussio venerit,
atque ventura ira.
[ブーツの先で踏みしめる土。
目の先を、白く小さい蝶が横切り]
[立体映像は、記憶を呼び戻したりはしない]
こっちに来ちゃったから?
[ふわり、ふわり、けれど蝶には到底及ばない]
さいご、かぁ。
[絵を描きながら呟く。
目を覚ました人々が、ドームをバックに歩いている。
さまざまな種類の鳥たちが空を飛び、さえずる。
そんな光景を描いていた]
失敗なんて、あるのかな。
失敗だって言われたから、生きようとするのかな。
>>+109
失敗とか、そうじゃないとか、人が決める権利はないよ。
きっと。
[ミナツが描く世界を、覗き込んだ]
失敗。そんなの……多分、ない。
そう、信じてみても。いいのかな。
今のペケレを見ていると。
止められなくても、それでも。
雫は水面に落ちてひろがり。
……博士。俺も、自然の一部なのかな。
あなたがくれた心からの言葉。素直に信じてもいいのかな――――
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