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[子供はもう笑わない。
手を取らない。
熱を持たない。
キスもしてくれない。
見つめたまま、たたらを踏んだ足が放り出された眼鏡を踏んだ。いつから割れていたのか。レンズが柔らかい足裏に刺さり、新たな血を流した。
もう、いらない。
動かないモノは、もういらない]
そう、ね
十分楽しんだもの
おやすみ、坊や
……おやすみ
[背を向けてその路地を後にする。
さらに奥、もうひとつ死体があるとは知らず。
血の匂いを上書きして、さらにまた上書きして]
でも、そうね
……今夜の相手が見つからないの
[ひたひたと湿った足音が路地に響いた]
[足音が、聞こえた。
雨の日にするそれに似た足音が。
一たび立ち止まり、辺りへ目を向ける。そしてまた、歩き出した。やがて男が見た姿は、生きたものだったか、死したものだったか**]
[からん、と氷が鳴った。]
『……どうしたの、ぼんやりしちゃってさ。』
[顔をあげると、マダムがカウンタに肘をついて、男(名は、なんといったか)を見つめていた。不意に視界に入った紫のルージュに、不覚にもどきりとして]
……髭生えてますよ、オネエサン。
[照れ隠しに軽口を叩くとマダムはすっと目を細め、テノールの声をバリトンまで、落とした。]
『誰の、何だって?え?』
[男は慌てて背筋を伸ばす。]
いーえ、なんでも。
[カウンタの奥ではボーイが黙々とグラスを磨いている。
いつもの店、いつもの酒。通い始めてもう何年だっけ。]
『……雨、やまないわね』
[マダムがぽつりと呟いて、入り口を見やる。
そこには空色の傘が立てかけられていた。晴れた空の鮮やかな色も今は重く濡れ、床には小さな水溜りができている。]
……あーあ、シャツ干しっ放しだぜ。
雨になるなんて思わなかったしよう。
[半分ほど残っていた水割りをぐいと呷る。
一緒に暮らしていた女にはひと月前に放り出されたばかり。仕方なく、一人で部屋を借りて暮らしていた。意外な事に無駄に育ちの良いこの男、家事の類は一通りこなせてはいる。
気づくと、今着ているシャツも、肩がじんわりと滲んでいた。ぽたりと髪から雫が垂れる。音もなく近づいてきたボーイが、どうぞ、とタオルを差し出す。有難く受け取って、髪を拭き肩に羽織る形で引っ掛けた。]
『ゆっくり飲んでいきなさいな。
時間はたくさん、あるでしょう?』
[滑らかな仕草でマドラーを回しながら、マダムは言う。]]
うるせえ、どーせ無職のゴロツキですよ。
[冗談混じりにいじけてみせた男に、マダムは一瞬だけ、少し悲しげな表情を見せた。が、すぐにいつもの微笑みで、次のグラスを男の目の前に置いた。]
『……どうぞ、これはあたしの奢り』
[男は海の香りのするグラスを手にして彼を待つびしょ濡れのシャツを思い、しかしもう、忘れることにした。ほんの少し軽くなった心ごと、お気に入りの水割りに浸る。そうして、静かに夜は更けていく。]
[幾らか歩き進んだ後。濡れたそれとは別の足音が耳に入ってきた。止まった足音に、僅か思案しつつも男は其方を目指して歩き続けた。其処には、一つの姿が待ち伏せていた。
己の組織に属する者――エリッキという名の人物。あちらからかけられた声に、頷き]
ああ。
迷惑なら……かけられた方の覚えしかないな。
こんな事態に巻き込まれるとは。
全く、面倒な事だ。
[ふう、と些かわざとらしい溜息を吐きつつ答える。相手の姿を窺うように見やりながら、また潜め持つ鉄を意識しながらも、静かに]
……そうだな。
あえて誘おうと思う程には、私も若くない。
あの小僧のような、赤に魅入られた狂乱でもない。
[続く言葉にも頷いて、揺れる背を見据え]
[すれ違いざま、笑い声を漏らす。
目の前の男の素性等知る由もないが、何とはなしに同業者かと思う。
相手が自分の事を知っている事も知らないが、自分のことはともかく属する組織は名の知れているものだ。
仮に知られていてもその点は警戒しない]
くっくっ…難儀だな、俺もあんたも。
あの生意気な小僧が元凶なら楽だがよ。
[信用するわけではない。
ただ、利益で動くものなら理解もできるというものだ。
背に感じる視線もやがて離れるだろう。
名も知らぬ男は、自分に危害を加える利点を特に感じていなさそうだ。
少なくとも、今は]
さて、あの小僧か…後は、誰が居たか。
部下の仇討なぞ今更だが、こんな所で腐ってもられねえ。
[話し声が聞こえた。
低い声。男の声。
バーで聞いた、二人の声だ。
いつもどおりの顔ぶれだと思っていた。
けれど最初に殺したあの女だって、本当は知らないし、置いてきた坊やも思えば初めてみる顔だった。
ふと、空を仰ぐ。
街灯にとまった羽持つ何かが此方を見ていた]
全く以て。
ただ人死にばかりなら、些事だが。
常ならぬ異変が混じっているのではな。
[そう最後に呟き返し、そのまま消える背を見送った。ふ、と短く笑いを零し]
[見詰め合っていたのはどれくらいか。
詰めていた息を吐き出し、振り返った。
その、先に]
いやだ
[パン、と乾いた音がした]
おにいさんてば
………言葉を、くれないのね
[振り向いたのが功を奏したか、弾は脇腹を貫いていった]
[崩れ落ちそうになる膝になんとか力を込めて目に付いた路地に飛び込んだ。傷つけられたことはあるけれど、撃たれたのは初めてだ]
初めて、だって
……ふふ
[手負いの女だと侮って、すぐに追いかけてこなければいい。
行きたい場所に行ける路地。
あの男が、何を思って銃を手にしたのかはわからないけれど、本心から殺そうと臨むのなら]
もう ……時間、が
[ない。
平坦な地面で躓いて無様に転びながらそう考えた]
[正確には死が冷たかったんだろうと、今になってなら考えられる。
あの時はもう何も、何も。
痛み。気が狂うほどの痛みが襲ってくるのかと思えば、実のところ気は狂う前に止まっていた。
白いフラッシュ。飛んでいく思考。
もう後は痛みに強制的に引き起こされる自我が本能的に首を振るのと、その直後に失神し痙攣するのを繰り返すばかりだった。]
[抵抗はしたくても出来なかったと言う他ない。
死に従順な男だった。怖くなかったかといえば、嘘だが、期待もゼロではなかった。
ただもう少し、死にしがみついてもよかったかもしれないと、今なら思える。]
[夢を見ている。
一面色のない夢を見ている。
それが夢だ、と思いながら、ゆっくりと覚醒する。]
――おはよう。
[何でもない顔でそう言う。
そうすれば、何でもない事のように歯車は噛み合いなおすのだ。
たぶんね。]
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