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そうだ。
結局、我々人間には言葉を使うくらいの力しかない。
――まじないの心得があれば、また違う思索に耽ることもできるのだろうが……
[マティアスの言葉に、静かに同意する。
目を見ればわかる。
彼の眼帯に、半ば反射的に目を向けてしまう。目そのものが、見えない]
どうだかな。
だが、見えてしまう者も居るのかもしれない。
[自宅に戻るとまず“患者”たちの様子を伺う。
病や怪我を抱えたトナカイたちは
相変わらず落ち着いた様子で]
やっぱり、か。あり得ない話だよ。
外にはあんなに狼がいるってのに。
[あの、疑惑のきっかけとなった夜も。
吠えている間さえこんな調子だった]
……全く、どうしたモンかねえ。
愉しい?
……さあ、それは……それはどうだろうか。
[曖昧に笑う。
否定も肯定も、なく]
もしも私が巻き込まれず、ただの傍観者であったのなら。
ひょっとしたら、愉しんでいたかもしれない。…傍観者で、あったなら、な。
[ 『 そりゃ"どっち"の前提だ? 』…
別れ際、カウコの応じめく問いに、蛇遣いは
「あとで鏡を見るとわかるんじゃないか?」と
悪人顔で損をする性質の相手へ添えておいた。
ぐず、と歩むまま鼻先に音を立てて眼差しを上げる。
――双列を為した灯りが、ゆっくりと動いていく。
凍る湖上、冬だけの雪原を目指して…ゆらゆらと。]
祭壇を、つくる…のか。
[或いはあの列の中へ、既にドロテアが居るのか。
蛇遣いはじわり、嘆きを押し殺し双眸を細める。]
[開かれた幕から入り込む冷気。テントを訪れた男達の姿に、ほんの僅か、目を細めた。外の闇に揺らぐ炎は、男のコートにも、どこかオーロラにも似ていたか。小さく、口を開き]
……刻限か。
しからば……
[ドロテアに一瞥だけを向け、暝目した。
首飾りの中央に触れる仕草は、祈りのようでもあったか]
[蒼い極夜。
寒風が粉雪をさらう凍った湖面に、紅い極光が映る]
紅い輝きは常に惨事とともにある、…か。
[呟く。思い出したのは、先のビャルネの台詞。
先刻見かけた彼は、確か自身の小屋へ戻った筈。]
けれど、止まぬ験しもなかったろう…
夜も世も、在るばかり――だな。
[さくり。往来に踏み固められた道に沿って、
蛇遣いは歩をビャルネの住まいへと向けた。]
[薬を塗りかえる、包帯を取りかえる、
その他諸々。
やるべきことは山ほどある。
薬草を混ぜた餌を与え、当座の仕事は終わった]
さて、狼にも無反応って以外は
異常はなかったみたいだけど……。
治りが早くても、今はあんまり喜ばしくないのかも
しれないねえ。
[やれやれと呟いて。
トナカイたちが心配ないことを確認してから
再び外へと向かう]
…そう、か。
お前は、「飾らない」な――…
[口元に手を当て、思案のかたちを取る。
さくり、雪のうえに立てた杖の音を聞き
首を傾ければ耳のプレートが音を重ねた]
…――こうして誰かと話す機会を持とうと思うのも…
――、妙な事だ…
[常に群れの内々へと入ろうとしなかった男は
ぽつり 呟いてラウリへと顔を向ける]
[しゅんしゅんと薬缶は蒸気を吹き上げる。
書物に湿気は大敵なれど、乾燥しきった部屋は人間にとって毒である。
だから薬缶だけという譲歩をしていた。
暫し静かに茶をすすっている。]
――…?
[ことり、茶の入ったカップをテーブルに戻したときに、小屋の外に人の気配を感じれば、扉へと視線を流した。]
あれは…
[キィキィキィキィ…―――二本の跡を残しながら進む先に、遠く列なす明かりの揺らめきを見る。列が何を意味するものか悟るのに暇はいらず、前髪の奥で眉を顰め口元を引き結んだ]
………どうして…―――
[キィキィキィ…―――誰の何に対してか、掠れた声が車椅子の音に重なる。車輪を操る手が震え、道行の途中で車椅子は止まった]
――ウルスラ先生。戻ってたのか。
[ビャルネの小屋を訪ねる扉前…獣医たるウルスラと
行き会い声をかける。軽く足踏みして待ち歩を揃え]
お疲れさまだ。
晴れるは気でなく赤の空ばかりだが…
ただ、ひとを感じてまわっているよ。
…先生は、トナカイたちを?
[炎を引き連れた列が夜の闇を進んでいく。使者の男は、ついていくか否か迷うような素振りを見せたが、伝達の必要は薄いと見てか、尚場に留まる事にした。
それでも、テントからは出て、その前に佇み]
……、
[白く息を吐きながら、炎が遠ざかっていくのを見た]
[キィキィキィキィ…―――目的地たる長老のテントが見える頃には、列は遠のいていた。表に不吉なカーテンとも似る紅いアルマウェルの姿を見て、言葉はかけず注意を向けられれば目礼だけ置き近くまで寄り、遠ざかる列へと顔を向ける]
…いかないんですか?
…何か、見えるのか…――?
[他に気を取られたらしき言葉に
顔を向けるが男に見えるものは、何もなく]
…何が、見える――?
[歩み去る背へと、低く問うた]
生贄を、運ぶ列が。
あれは、湖の方だな……
[背後からの問いかけに、短く答える。
足を止めることはなく、しかしゆっくりと]
[キィキィという音と共に現れたレイヨに視線を向ける。その瞳は、憂いの色を――あくまで常のように――孕んでいたか。ゆるりと一度首を横に振り]
……行ったとて、出来る事はない。
あの列ならば、伝達する必要もないだろう。
あるとして……終えられた後だ。
[何が、とは言わず。静かな、しかしよく通る声で答え]
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