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[己の告げた言葉を復唱する柏木が、まるで機械のように思える錯覚。
――ぞくり、無機質な反応に、微か背筋が震えた。
灰色を望む癖に、今度はその灰色を怖れている。
弱い自己に気づいてポケットの中の指先を、強く握り締めた刹那。]
―――…、
[空白。
柏木の沈黙を静かに見守った。不意に紡がれた『違う』の言葉に、床へと崩れる様子に驚き、咄嗟に身を屈ませ]
……柏木さん、―――…え? ちがう、って……、
[その背を支えて身を起こそうとし。反対の手で倒れた椅子を正していく]
違う、って……、何と、です?
この間も、言ってた気が……、
……貴方だって、あいつらと同じで……
貴方だって、あいつらで。
やっぱり、皆、あいつらなのかもしれない。
皆、そうなのかもしれない。
[ぶつぶつと呟きながら、両手で帽子の唾を押さえ込むように掴み握る。背中を支える手を離そうとするように、身を捩り、片方しか動かない足で後退ろうとし]
……やめろ。
来るな。
俺を、見るな。
[震える声で零し、俯きながら顔を覆った。男は明らかに平常ではない、極度の興奮状態にあった]
[――「笑うな」
そう紡いだ言葉は――音にはならず]
[支えようとした身体が、僅かづつ逃げていく。
豹変した柏木の様子に驚き、自由の利かぬ身で牙を剥くかの姿に一瞬、たじろいでしまう]
柏木さん……?
『あいつら』、って……、
[柏木は全身で己を拒絶していた。否、怯えていた。
常の穏やかな語り口調とは異なる声色で、己を通じて『なにか』を、それに対する畏怖を思い出してしまったのだろう。
平静を取り戻させなければ―― 咄嗟に、柏木の頬を軽く、平手で叩こうとし]
……ごめんなさい、あの……、
僕は、『違い』ます。 ……落ち着いて、ください。
[頬を叩かれれば、男は一たび動きを止め、眼前の姿を見据えるようにした。少しくずれ傾いたサングラスを、震える指先で押し上げ]
―― ……俺、は。
私は……
[ぽつり、ぽつり、呟いて]
……、
何、でも……何でも、ないんです。
何でもないから。気が付かなかったから。
私は、気が付いていませんから。
気が付かなければ。平穏なんです。
あいつらは思い込むのを看過するくらいはしてくれる。
[呟きながら少しく床を這い、ベッドに這い上がろうとした。結城がそれを助力しようとしたなら、再度拒みはしなかっただろう。
彼の事を恐れるような気配を残してはいながらも]
[軽く頬を叩いた後も、柏木の混乱は見て取れた。
それでも次第に常の彼を取り戻すかの様子に気づくと、脱力したように下方へと零れ落ちて]
それがあなたの逃げ方、……なんですね。
ごめんなさい、……勝手にね、……僕と同じなのかなって思い込んでたみたいで。
[きっと、柏木の背負っているものはもっと大きなものなのだろう。或いは『追われていると思い込んでいる』のかもしれないとおぼろげに、勝手に憶測していた。
寝台に這い上がろうとする彼を支え、自分も立ちあがる。
畏怖の気配が何故か少し哀しくて、眉尻を下げた。]
僕、あなたの絵は良く、解らないですけど……、
こんな色合い、好きですよ。
こんな世界に見えていたら良かったのに、……そう思います。
[寝台から距離を取り、微かに微笑んでそう告げる。
引き止められなければそのまま、部屋を出ていこうと]
[ベッドの上に登り、男は改めて結城の方に顔を向けた。すみません、とも、有難う、とも、それらの言葉が頭を過ぎってはいても、口にする事までは出来ず]
…… 空が。
空が綺麗な日だったら……
今度こそ、大丈夫な気が、するんです。……
[代わりに、そう、二言三言の言葉を紡いだ。外に出ようとするのを、引き止めはせず]
[背中越しに聞こえた言葉に意識が縫い止められる。
主語のないその言葉の真意は解らなかったけれど、酷く心に焼きついて。]
……空、綺麗な日に、また……、
散歩に、行きましょう。
[生憎、窓の外は今、雨がしとしとと降っていたけれど。
そして、その日が何時やってくるのか、わからないけれど。
永遠に来ない、なんて事は想像出来ていなかった。
だから、『さよなら』なんて言わずに、静かに扉を開いて*出ていった*]
[また。その響きを脳髄に巡らせながら、結城の背を見送った。それから男は夕食の時間が来るまでただベッドに座り続けていた。夕食は半分も食べずに終えられた。消灯より早く、男はシーツに潜り]
…… げ、ないと、……
[呟き、震えながら――
やがて、眠りへと落ちていった]
[朝が来て、大きな虹が出ても。常にカーテンを閉めた部屋からでは、それを目にする事はなく。ただ、朝食を運んだ看護師が話題に出したのを耳にした]
『今日は、いい天気ですよ』
[看護師は、そう言って*笑っていた*]
[千夏乃は数学が好きだ。
好きな科目は音楽と数学。そう言うと、変わってるね、とよく言われるのだが。
どちらにも、世界の秘密が隠れている、と、千夏乃は思う。
ひとの心の秘密、ひとの手の及ばない地球や宇宙の秘密。
美しい数式は音楽のような感動を呼び起こすし、美しい音楽には数学的な音と音との関係性が隠れている。]
…ほら、ここ。ここでね、お風呂があふれるんです。面白いでしょ?
[それは半ば、独り言のように。]
あーあ。早く明日になったらいいのに。
明日、夕方からおとうさんと弟が、来るんです。
ほんとうは昨日、おかあさんが来るはずだったんだけど、お仕事で来られなくなっちゃった。
[鉛筆でくるくると宙に円を描きながら、頬杖をつく。
千夏乃はおとなしい子供ではあったが、おしゃべりな方だ。放っておくと、一人でも延々と喋り続ける。今日も、ゴトウが口を挟まない限りは家族のこと、好きな歌のこと、大事な羊の縫いぐるみのこと…静かな口調で、しかし坂を転がる石のように、次々に言葉が紡ぎ出される。まさに、ちょっとやそっとじゃ止まらない、というやつだ。
しかしある時不意に話をやめて、千夏乃は窓の外に視線を移す。]
夜 病室
[その晩、夕食の時間だと隣人に揺り起こされた田中老人は、昼と同じく膳を運ばれるを欲した。
珍しく、彼女は駄々をこねる子供のように食べたくないと言葉を零しもした。
その間中、きつく握りしめられていた人形はというと、何にも言わず、何も見ず、ただ色の薄れた眼差しをカーテンの向こうにずっと投げかけていただけだった。]
朝 病室
[昼日中に睡眠をとったせいか、彼女の睡眠はごく浅いものだった。しとしと降り出した、冷たい空気を縦に割っていく雨音に目を覚まし、カーテンに覆われた窓をじっとみることもあった。 笑わずに窓の向こうをみる彼女の顔は、それでも無数の皺が支配し、その中に埋め込まれた小さな眼差しには感情を伺えるような隙間はなかった。
それから彼女は眠った。看護士に揺り動かされるまで睡眠を貪った**]
[点滴装置を引き、深緑のパジャマを着た少女はゆっくりと廊下を歩く。昨日は会えなかった、とラウンジへの扉を開き、陽射しを正面から浴びた。
息を呑み、扉をまたすぐに閉じた。ぼたんがそこにいて、声をかけられれば答えただろうが…何もなければ、そのまま背を向けて、また入院棟内を歩き出す。
顔見知りと出会えば、挨拶をして、やがて公衆電話のある一角へたどり着く]
[夜半から本降りになった雨に濡れる黒い窓をぼんやりと眺めながら、当直室でカフェインを打った。
そして今朝、またひとりの患者が亡くなった。
胸の圧迫感も激しい動悸も動揺も感じる事は無かったけれど、代わりに胸の奥に洞が拡がるような感覚を覚えていた。
僕の世界に 依然色はなく
天空には大きな、鮮やかな虹が架かる
あの人はこの虹を 目にしただろうか
軽く瞼を伏せて、白いキャンバスに描かれる極彩色を、脳裏へと描いていた]
午前:廊下
[いつもと変わらずに回診中。出会う人々へ「おはようございます」と笑顔で声を掛けていく。
顔色に変化はないか。
数値に変化はないか。
それらと淡々と書き記し、ふと廊下の窓を見上げる。
虹はもう見えなくなっていたけれど、いい天気だった**]
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