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だめだよ、マシロちゃん。
清治くんのことが大切なら、ちゃんと食べてあげなきゃ。
そうして彼の罪を清めてあげよ?
[ね、と年上らしくマシロを諭すようにやんわりと言う。]
どの…?
[ぱちぱちと瞬きを返す。]
――― 清治くんは1人しかいないよ。
偽物とか本物じゃなくて、1人だけ。
…だから、
清治くんのこと思うなら食べてあげなきゃ。
変かどうかは、私には解らないけど
「この村」らしからぬ発言だと思うなら
―――― 心の内だけにしておいた方がいーよ。
清治くんのとこに早く行きたいなら
―――…止めはしないけどね。
[じゃり、ずるずる、と引きずりながらまだ温もりが残る遺体を運ぶ。
やがて村長の家に辿り着けば、アンを殺した犯人が彼だということを伝え、準備を整えれば腑分けに入るだろう。**]
ううん……。
[ちらりとセイジを見る]
…いえ、そうですね。ごめんなさい。
[にこりと微笑んで彼を運び、村長の家でワカバと村長の会話を聞くところまで一緒にいたが、挨拶をして外へ出て]
さよなら、私の知らないせーじくん。
…ばいばい。
[風にかき消えそうなほど小さな声で呟いた**]
[聞こえたホズミの声にも振り返る事もせず、男は歩き続けた。一片の非日常から未だ醒めていない村の中を、ただ、歩く。蝉の声ばかりが喧しく聞こえていた。蒸すような空気が肌に纏わり付いていた]
……
[儀式の際に使われる場所まで来て、足を止めた。まだ準備が整っていないがらんとした様子を眺める。一瞬、困惑とも、悲しみとも、安堵ともつかない表情を浮かべ]
……セイジさんは、何処か遠くに行けたのでしょうか。
この村に還ってくるのでしょうか。
[先刻死した青年の事を思い、呟いた]
[彼は村を憎んでいた。村人達を殺そうと考えていた。そしてアンを殺した。己は村を憎んでなどいない。他の村人と同じように。本当に、憎んでなどはいない、のだと思う。少なくとも殺意などというものは己の内にない。
しかし、己は心の何処かで――村を、恐れていたのかもしれない。容疑者という立場に置かれて、セイジの過去と死に触れて、その事に気が付いた。奥底に閉じ込めて、閉じ込めたという事すら忘れていた感情を、思い出してしまった。
語り部を担う男は、この村が「世界」にとって異端であるのかもしれないという可能性を、十分に有り得る事として考えてみられる程には、多くのものを知っていた。だがもしそうだとしても構わないと思っていた。己にとっては村こそ全てであり、村こそ正しい世界であり、他所の事などを思う必要はないと思っていた。村が異端であったとしても、それは恐れるべき事ではなかった。
恐ろしいのは、世界にとっての異端になる事ではなく、村にとっての異端になる事だった]
[異端を排除する村が、恐ろしかった。母を排除した村が、恐ろしかった。己を排除しようとした村が、恐ろしかった。己が異端として生まれた事が、恐ろしかった。
恐ろしかった。再び異端として見られ、排除される日が来るのではないかと]
……私は……
[意識の片隅で恐れ続けていた。語り部となったのも、揺るぎ様がない村の一部になりたかったからだったのだろう。幼い頃、母に何と呼ばれていたか、もう思い出せないのが悲しかった]
……私は、異端なのでしょうか?
[欠損を持って生まれた己は。何より、このような事を思う己は。微かな声で発した問い掛けには、蝉の叫ぶような鳴き声しか返ってこなかった]
[それから、男は集会所や村長の家には向かわなかった。空が橙と紺で分かたれる頃、ある山の中、村の外へと続く道の途中で佇んでいるのを、今回の件でか否か外に出ていたらしい使いの者に発見された。
使いの者は驚いたような、訝るような目で男を見て、何故此処に、と尋ねてきた。
村から逃げ出そうとしていたものと思われたのだろう。男自身は逃げるために此処に向かったわけではないと思っていたが、なら何故此処まで来たのかと考えてみると、やはり己は逃げようとしていたのかもしれないと思えた。村の掟からでもなく、村人からでもなく。再び閉じ込める事は叶わず、生ある限り己を苛むのだろう、深い恐怖と懊悩から。
問い掛けに、そうだとは言えなかった。けれど違うとも言えなかった。無言で暫く視線を合わせていてから、男は踵を返し、村へと戻っていった]
[自宅に戻ると、灯りの一つも点さないまま、縁側に腰掛けて外を眺めた。見慣れた村の夜の風景。あのような事件が起こったばかりだとは思えないような静かな風景だった。長く、深く、一呼吸して]
……何が、異端なのでしょう。
異端とは、何なのでしょう。
「汝の姿を鏡に映せ、其処に映るのは」……
[独りごち、ふ、と笑った。あの使いの者にけして弱くない疑いを抱かせた己は、近く儀式に奉げられる事になるのかもしれないと、あるいは問い詰められ罪人と――異端とされるのかもしれないと、思った。
それでもいい、と感じる。
尤も恐れていた排除は、しかし望ましい事であるようにも感じられた。喰らわれ繋げられたならば この魂も異端ではなくなるのだろうと]
罪は死によって赦される。
命は喰らわれ繋がれる。
[そう呟いて、語り部は静かに*目を閉じた*]
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