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あ、そうそう、神さん。
あの二人が戻ってくる前に。
自分、あんたさんに無理を承知でお願いした事、
あるんですけどー…。
[茶目っ気を湛えた口調とはうらはら。
視線は至って真剣なもの。]
ひとつ、七夕の願いを聞いてくれませんか?
今から還ってくるふたり…
ナオさんとヤスナリでしたっけ?
あの二人、自分の存在と引き換えに。
元に戻してやってくれませんかねぇ?
いや、無理承知で言ってますし、
本人達が望まないなら、
それはそれで良いですけどね。
ただ――
[手渡された髪飾りをきゅっと握り]
自分、彼らの願い事、叶えてやりたいんですよ。
駄目なら一年に一度だけ。
向こうに還られる様に。
だめ、ですかねぇ?
[へらりとした笑顔で、懇願した**]
うん、よかった。
ホント、よかったー……
[短冊を追いかけるマシロを不思議そうに見る]
何て書いたんだ?
[次々に響く花火の音。
頭の奥で何かが焼きつくような感じがして瞬いた。
県展に出ていた書道部の女の子のこととか、ひときわ背が高かったバスケ部の男子のこととか、そういう他愛もないある日の記憶が、ふとよみがえる*]
[初めて自分に向けられる、真剣な表情に。
逃さぬようにのばした手は星空を掻いた]
……あ。
[抱き留めたのは温度のない宙のみで。
何もない腕の中を見つめる。
唇をかんで、そっと目を閉じた]
[涙はでない。
もう、散々泣いたのだから]
ひどいよ。
ちっとも私の料理、おいしくないみたいじゃない。
少しくらい、長居してくれてもいいのに。
[ハンカチを握りしめて、歩く。
本当は、とっくに気づいていたのだ。
ヤスナリが、この世の人ではないことを]
[だって自分は彼の葬式に出て、恥ずかしいくらいにわんわん泣いて、次の日は目が腫れて学校にいけなかったのだから]
ヤスナリくんの馬鹿。
せっかち。
薄情者。
うっかり屋さん。
[唇をとがらせて、文句を言いながら。
花火があがって、後夜祭を楽しむ人混みの中を、地面を見つめたままずんずん進む]
[ぱたり、立ち止まるのは、色とりどりの短冊がつるされた笹の前]
ええと、どれだっけ。これか!
[ぶち、と自分の書いた短冊を引きちぎる]
もう、私のお願い事、かなえてくれなかった! 神様の馬鹿。
[それは、一年前にもした勇気を出すためのおまじない]
[くしゃりと短冊を丸めて、ぽけっとにつっこんだ]
楽しかったとかありがとうとか、言いっぱなしで返事聞かないんだから。
[もそもそと口ごもりながら、笹の葉を、その向こうに見える天の川を見上げて、ちょっとだけ思いだし笑いして]
ありがとう、私も楽しかったよ。
それと――
[たったひととき、自分の願いを叶えてくれたのは神様ではなくてヤスナリだ、そう思うから。
目を閉じればはっきりと思い出せる真剣な表情。
部活に打ち込む時のもので決して自分に向けられるものではなかったけれど、その横顔が――]
腹すかない?
団子だったら残ってると思うんだよな、うちの部。
[そう言うと、とある男の残像が浮かんでは消える。
彼は誰だったか。
まばゆい花火を見上げて考えるが思い出せない。
しばらくぼんやりとマシロを見つめていたが、おもむろに左手を伸ばして、華奢な手を*握ろうとする*]
あぁ、自分のこと、ですか?
[「二人が戻りたいと願うなら」。
無理な願いを言い出すと、
見透かされたように上から問われた。]
良いんですよ。自分の事は。
だってあの子は――
[足をぶらぶらさせながら覗く、現実の世界。
夜空に舞う打ち上げ花火が眩く光った。]
…別な願いを叶えてあげたほうが、幸せでしょ。
[自らが渡したハンカチで、
涙を拭わないほどの強さを叶えた方が、
きっと――]
それにね、恋より愛のほうが。
ずっと続くと思いませんか?
…なーんて自分、言えた立場じゃないですが。
[「くさいですねぇ」
冗談交じりに苦笑して照れ隠し。
手にはあの雪結晶の髪飾り。]
仮令忘れられてもね。
自分が憶えていれば良いんです。
自分が心を動かされたことだけをね、
――知っていれば。
[ひとり語散て、空に散らすスターチスの花びら。
それは花火と共に*夜空に消えた*]
[ベッドの上で目覚めれば、保健教師に気絶していたことを説明され、ンガムラが羽つけていたりしていたのは夢かなにかだと認識する。
もう大丈夫だと教師に告げれば、そのまま保健室を出て。
部室でいくらか話をして、報告を貰うと、行くところがあるからと部室を出た。
そんな場所はただ一つ]
あれ?
私の短冊、どこに行ってしまったの?
[ネギヤ像のそばの、笹の前。
自分で飾ったはずの短冊が消えている]
ここに飾ったと思ったのだけど…
…私のも、落ちてしまったのかしら。あのとき…倒れた2人の短冊も落ちていたわけだし…
[下に落ちていないかと探したが、見つからない。
強い風も吹いていたし、落ちていたとしても風で飛ばされたのだろう。そうおもうことにする。]
今年も、かなえてくれなかったわね…お願い事。
[去年も同じようなことを願った気がする。
『素敵な人にあえますように』
こんな受け身だから、いけないのかな?と首をかしげる]
…いや…
もしかしたら、叶ってはいるのかしら。
[願ったのは恋人じゃなくて、素敵な人。
気付いていないだけで、何処かにはすでにいるのかもしれない]
…かも、ね?
[それが誰か、なんて、全く分からないけれど。
でも誰かを見つけられるのは、きっと自分だけだから]
見つけるお手伝い、してくださいね?…ネギヤ様。
[そのくらいは良いでしょう?と、ネギヤ像にほほ笑んで。祭りの片づけの喧騒の中、ゆっくりとそこを後にした]
― 7月8日 ―
[ワカバの家の前。
ブロック塀に座って、学生鞄を横に放り投げ、両手をポケットに突っ込んで彼女を待つ。
彼女が玄関の扉を開けたら、片手を挙げて照れくさそうに微笑んで。]
よっ。
俺、生き返っちまったみてぇ。
……学校いくか?
[告白も。何もなかった*フリをして*]
ち こ く するー!
[がん、ばたん、と扉をあけて。
履きそこねた靴を取りに戻って]
行ってきまあ……
[叫びかけた声は、夢でも幻でもないらしい、その姿に遮られる]
……ああああ!
[びしり、指をさして。
上から下まで穴が開くほど見て]
足がある!
[町内に響くほどの声を上げて――**]
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