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[ぞくり、と小姐の背筋が凍った。]
[――――「あっちへ行こう」。
なんのことだかなんの声だかわからないというのに。
「こちらにおいで」ではないことが無性に怖かった。]
[やはり小姐に気づくことなく歩いていくふたつの影。]
[スイカ畑の中に立つ古い電柱に、ツタが巻いている。
上まで伸びて電線にまで絡んで覆う鬱蒼とした姿は、
両腕をおおきく広げて立ちはだかる怪物にも見える。]
「 あっちへ行こう 」
[引っ張る力さえ秘めるその声を、]
―――― 行かないっ
[振り払うように叫ぶと、小姐は身を翻し走りだした。]
あらん。おにっきーちゃん。
[ハンカチで顔を覆っている。
怪しさは倍増である]
祠を探してるのよう。
おねぎちゃん、確かここ、気にしてたし。ここなら、誰も探していないだろうしね。
[潔癖性の男が弱点をおして来るには酷い場所だ、馬鹿なことしてるわね、と肩をすくめて見せて]
おにっきーちゃんもおねぎさん探しにきたの?
[首を傾げた]
説明と言われても、あたしにも何がなんだか。
ネギヤさんか異星兎さんに聞いてくださいよー。
[ひら、とめくって見せるセーラー服の裾。
そこにあるのは左右反転した『小鳥川』の刺繍だった]
先輩は、元に戻れるといいですね。
[取られた腕と反対側の手でポケットをさぐり、星の形のグミを取り出した。
ライデンの目の前へそれを差し出して、微笑む]
あ、それじゃ私と同じですね。
祠を探しに来たっていうか、場所はだいたい分かるんですけど。
だから、祠に来たっていうのが正しいですかね。
ネギヤさん、あそこ気にしてたんですか?
あ、こっちですよ。
この先を少し進めば祠です。
[ンガムラの問いには答えず、辛そうな彼を案内する]
あっちに行こう。
あっちって、どこ。
いやだよ、行かない。あたしは帰るの。
[星のかけらが秘める思いと自らの其れが入り混じる。]
帰るんだ、…ッ
[闇雲に走った。
くずれるふるさとから逃れてきた、流れ星のように。]
場所解るの?
[通り過ぎてきた立ち入り禁止の看板を見るように、とうに見えない道祖神に視線を投げて]
まさか秘密基地にしてたりしないわよね。
[しっかりとした足取りの相手の案内について歩き出す、あたりをきょろきょろしながら]
おねぎさん。
そうね。かえる、とか、もどる、とか……そんなこと言ってた。
[唇を指で撫でる]
はあ、はあ、はあ…
[やがて走り疲れて、わらう両膝を掴み
肩で息をする頃には――――裏山のなか。
とうに蝉はなきやんで、まばらにりりと鈴虫がなく。]
ここ、どこだろ。
あれは…
オーナーと。ニキ坊…… ?
[祠へのほうに分け入る背中を見かけて、
がくがくする足を ゆるり そちらへ運んだ*]
秘密基地だなんて、まさか
小学生じゃないんですから。
[ンガムラの言葉にそう言って笑って]
かえる、もどる……か。
ネギヤさん、知ってたんですね。
[呟かれる独り言。気がつけば祠の前に来ていた]
あら。意外と素敵じゃない?
……もうちょっと綺麗なところだったら、だけど。
[前半は楽しげに、後半は眉を引きつらせて]
……知ってた?
[祠の前で立ち止まれば静寂の中、その言葉は不思議と耳に届いた]
けど、俺よりは事態を把握しているはずだろう。
何せ扉を描いていたのはお前なんだし。
[片手で恐る恐る壁に生える光苔に触れてみる。温かい。
少女のめくれたスカートに目線がつられかけ、慌ててそらす。ややあって首を傾げた]
異星兎って、物語に出てきた願いを叶えてくれるとかなんとかの……?
[「先輩は」元に戻れるといい、との言葉に、腕をつかむ手へ思わず力が篭った。
グミを空いている手で受け取って、少し迷ってから口に放り込む。
掴んだ手は離さぬまま、胸ポケットから金平糖が詰まった小瓶を取り出して、少女に差し出した]
小鳥川は、これからどうするつもりなんだ?
みんなで掃除すれば
もっと素敵なところになりますよ。
[他人事のように言った]
ええ、知ってたんです。
ネギヤさんは。
おかしな現象を直すための答えを。
[自分もそれを知っているかのように、
きっぱりと言いきった]
世の中謎だらけなんですよ。
さしあたっては兎さんを探そうかな、と思っております。
[>>68迷って、それからおずおずと小瓶を受け取る]
先輩、金平糖とか、似合わないですね。
あはは。
みんなで、か。
まずなんで立ち入り禁止なのか、よね。
[現実味を帯びない響きを聞けば、こちらも、まわりを見回してあきれたようなため息をついた]
おかしな……?
[はっきりとした声音に首を傾げた。
おかしな、と感じるような過去、男は上手く思い出せないから、ただ壊れた腕時計を見る。
止まったままのそれ、いつから、こうだっただろう?]
それ、アナタ、直せるの?
[やはり、ゆるりと、問う]
立入禁止… だっけ、ここ。
[さくりと草を踏んで、祠前のふたりのもとへ。]
ライデンくんとミナツ坊も、
いなくなっちゃった…
ここが、忘れられてたから…なの ?
[寂れてもなお清浄な空気を壊さぬように、
声は自然と辺りをはばかる態にささやいた。]
[立ち入り禁止、の言葉に少女は語り始める]
昔々、流れ星に乗って異星人がやってきました。
異星人は代償と引き換えに
願いを叶える力を持ってました。
願い事をかなえるために
村の人たちはこぞって異星人に願い事をしました。
最初はよかったのですが、
同時に叶えられない願い事があったり
あまりにも小さな代償で
大きな願いを叶えてもらおうとする
欲深い者も現われ――
異星人はとうとう願いを叶えることを
やめてしまいました。
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