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[凝固した血潮と海水にインクは滲み、
西の領主の子息だった男が綴っていた
憎悪の記録は読み取ることができない。]
[――海草ゆらめく水底には、
魔にとらわれたたましい達が灯る。
穏やかなる者、永劫に呪う者さまざまに。
夜毎にとむらいに向かう執着の僧の其れは、
灯台へ蒼火を入れて新たな犠牲を招きもし
天へのとむらいを淡く望んだ悪意の海魔は、
それもまた順流とばかり隣人のようにある。]
[海魔がいなくなった浜辺には、
茶褐色の細い薬瓶が落ちていた。
薬効語られぬがゆえに精神を侵す毒薬は、
しばらく半ば砂に埋もれて在り――――
拮抗する者のない 生き腐れの閉塞感に、
物狂いがふたたび耐え切れなくなった頃
波に攫われて *失せる*]
[学者は欲にとらわれている。
欲望の充足とはすなわち快楽の達成である。
求めて足掻けば足掻くほど、快楽の充溢の甘美なること!
あらゆる知識に貪欲なる学者の欲の行き着く先が、
誰もが経験することながら決して知識として蓄えられぬ現象、
――即ち死へと向かうのは、至極当然のことであった。
今、地に付した体、近づく足音に霜の割れる、
転がる眼鏡に世界は歪み、狂人の顔を見上げれば、
その口端もまた歪んだ三日月の形]
おや、
聞いていたのか ね、
[痛みに縺れる舌で、紡ぐのは死人への声。
理由をありきで人を殺すのは、人である。
今、我が身にふる理不尽なる災厄も――]
………、ッ 悪食め、
[朦朧とする意識の中、
気狂い男に吐き捨てる唾には、血の混じる。
乾いた世界に鮮やかな赤]
ああ……君、私を食らう前に、
私に殺されてみる気はないかね?
[口にしながら、くつと喉が鳴る、
それは咳き込む音やら呻きやらにすぐ消えたけれど。
妄想の中、学者には確かに悦の色がある。
死という無二の快楽に魅せられ、
学の世界を追われ、人の世界を追われ、尚]
……残念だよ、
しかし我が身での実践も、また、
[無上の快楽であるだろう]
[男に引きずられる道行きの中、薄く目をあける。
海のものは海へと還るのか、魔物の気配は知れず。
ただ、吹き荒ぶ風の中には、
おぼろげに小雪の混ざりはじめていた。
やがて分厚い氷の壁に、
しばし陸と海の隔てられる季節が至る*]
断頭台に立ったあなたも、父の弟の一族の 仇……と
怨んでも 居たはずなのです……。
何故だろう、この深い
海の底で
せんせいの その冷たい 目と、
出逢いなおしてから…
俺は、
今となっては──、
その害意の毒が、沁みて しみて
麻痺した頭には、もう一人の父の ような懐かしさ。
くろ い
に くい
ゆるさ な い
[呪の様に、海の中で揺らめく黒い影。
ボディルが引き込まれたと知って、ヘイノの顔は、半月型に歪んだドラウグの笑みに変わる。]
>>3:17
[ こぽり ]
[ こぽり ]
[水泡が見えてもその音が聴こえなくなったのは、耳を無くした所為か。]
──……ばけものに魂を売り、
死んだものを くらっても、……
ああ、 俺の耳を取ったお前が
生き生きと
欲望をあらわにするさまが、
熱持つ、ヒトの目と 指が──うらめ しい……。
[ こぽり ]
[足は水底の海草に取られて──同じ場所に落ちてくる無気力そうな若者の姿をみても、動かない。生贄を弔おうとした僧が落ちてきても、海草と共にゆらり、ゆらり揺れながら、海底に繋がれた──まだ魂を奪われていない人間達を、毒にあてられ浮いたような邪悪な笑みで眺める。
海の中には、虫の屍骸も ある。]
[吹いていたはずの押し上げる風より尚
力強く緩い波に押され吹き溜まる寒い空の下
うねる海藻は未だ枷から延びる鎖に絡み
冷たく暗い底から浮かぶ事も無い。
その双眸の奥にはかの一族の生き残りの、
氷刺さる強い視線灯したままにどろり
膨れていく]
嗚呼、僕は こんなところで…
――ならばせめて、
[もう触れられぬ下腹を撫で
ふらりと 向かうのは 村の奥
入口に薪束置かれた苔生す墓守小屋]
[ずぼり]
[足を踏み込んでもする音はただ自身の内だけ
ふと手を見下ろすといつの間にまぎれたか
鳥葬僧の見せた糸が鈍く光り地に落ちた
千切れぬ千切らぬ錆びた枷たる鎖は
手首から腕を昇り身体に巻きつけていて
重力は裏切りの対価として捨てられず
―――斧でも振るわれれば身も護れようかと。]
せめて、
[ずぼり]
[ずぶずぶ]
[気泡の音など立てる事なく
その透け身は地へと沈みゆく。
誰のものか 誰が作ったかわからぬ墓石の裾
帰る地無き男はただ人として 人らしく
叶うならば忘れられぬ栄華の時のように
更なる高みを目指して失する前の時のよにと
惨めったらしく縋り眠りたいと―――
けれど
[こぽり‥。]
叶わぬ願い**]
[ヘイノの水底に囚われた魂は、出来損ないの魔物として、他の人間達の魂の揺れるさまにわらい。
自身がなし得なかった復讐を嘆き。仇敵が、おのれが手を下さずとも罪人に落ちぶれていたことを、あざける事で溜飲を下げようとする、浅ましさもある まま。]
[おのれが、生贄に絡んでいた狂人に、いともたやすく呼び寄せられたのが終わりのはじまりであったと言うことは、おそらく最初に海に沈んだラウリの魂から聞く事が出来る。
何故。
何故、呼ばれたのか。
呼ばれたが、役立たずで、ヘイノは捨てられたのだろうか。
そう、されたかったわけでは、決してけしてないのだが。
あの耳を奪った学者のように──犯すだけの価値もなかったのだろうか。
相手に問うことは出来ず、この村へ辿り着かなかったとしたらの人生を思い描いてしまう。]
[地上で、おのれの肉体だったものが、切断され、食われかけのまま、壊れ腐り、蛆が湧いて行くのを、うらむ。どろり、魂も腐り行く。
故郷を、家族を──懐かしむこころも残っている。
それらすべての喜怒哀楽、記憶が詰まったヘイノの脳漿を、第二の父とおもえる者が、木匙をさして、食らって行く事実に、
きがくるう。
きがくるう。
きがくるう。
が、その捩じれた最後のぜつぼうもすべて、
魂を明け渡した相手の裡に 取り込まれるのだ**。]
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