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喰いすぎなきゃの、喰いすぎなきゃ
[軽口を叩く口も、重たくなっていく
拒否されなかった手を、自覚してしまうと
自分の行動に、恥ずかしさを感じるけれど
それでも、何処か繋がっていないと、不安で]
…―――
いくか、この先やろ
[一歩、一歩、足を進めた]
そやな、甘いもん、喰いたいわ
帰ったら、甘味パーティーするか
[ナオに、そう言った
帰ったら、戻ったら、そう考えないと
心がきっと、折れてしまうのだ]
ほうか。菓子なら持ってきとるさかい。
後で一緒に食べんけ?
[ナオには、そんな風に言っていただろう。「後」は必ず来る、というように]
ん。ほんなら、行こうか。
……二人とも、気を付けまっし。
[かつり、廊下を歩き出す。二分とかからず、目的の女子トイレの前に辿り着いた。もう着いてしまった。そんな事を、一瞬だけ思いはしたが。
入り口から、トイレの中を見る。此処からでは並ぶ個室は見えない。奥にある小さな窓が、きしり、と小さく軋む音を立てていた]
…―――
[目的の、女子トイレの前
辿り着いてしまった、校内最後の七不思議
さて、どうやって切り抜けたらいいのだろう
もう、誰も消えないようにするには
どうしたら、いいのだろう
わからない、何もわからないけれど]
ノックして、花子さん呼ぶんやっけ?
俺が、いこか?
[守らなくては、ならないのだから]
手前から二つ目の扉を三回叩くんや。
ほんで、花子さん遊びましょ、って言うんよ。
……ほんなん。
私がどう言うかなんて、わかっとるやろいね。
[ヨシアキの問いには呆れたように、笑い混じりに返した。ヨシアキに先行の危険を冒して欲しくはなかった。そして、ナオにも]
私が行くわ。
ヨシアキは、「そん時」止めてくれんけ?
信頼しとんやからな。
[ヨシアキをじっと見据えて言い]
どうしてもそれが駄目なら……
私とヨシアキで、じゃんけんや。
[半ば冗談半ば本気のように続けて、に、と笑った]
…――――
俺は、マシロを守る
そう、ゆうたしな
ええわ、止めてやる
その代わり、マシロ
何があろうと、俺ん手、離すなよ
やる事やったら、無理矢理引きぬく
花子さんが、返事しても、せんでもな
それで、ええか?
[マシロに、右手を差し出した]
…――――
[器の背中で、じっとトイレを見る
そうだ、たしかそうだった
生きていた頃の、記憶
私は、この学校で生まれた幽霊ではない
学校と言うのは、負の感情が集まりやすい場所
その負の感情に、惹かれてやってきた魂
七不思議なんて物が、負の感情の典型だ
最初は、形なんてなかった、ただの嘘
それを、生徒達が言葉にし、語り継ぐ
その言霊に、想いをのせて]
[怖い怖いと、笑いながら
心の底の負の感情が、嘘を真にしていく
それこそ、学校の七不思議]
「何か不思議な事が起こればいい」
「自分が関わらなければ、怖い事があればいい」
「ただ怖いだけじゃ、面白くない」
「たとえば、誰かが死んだりすると面白い」
[学校には、理を知らぬ者達の
無邪気な邪気が、溢れている
それが、私のような、古い、悪しき魂を
このような場所に、引き寄せて離さない]
…――――
そう、私の名前は
良し。
[ヨシアキの返事を聞けば頷き]
おいね、しっかり握っとるげん。
ちゃんと引っ張りまっし。
[再度頷きながら、差し出された手を左手で握った。握り合わせた手を一度見てから、トイレの中に入り込み]
……行くじ。
[二つ目の個室の前で止まり、その扉を見つめる。左側に立つヨシアキを一瞥すると、一つ深呼吸をしてから、扉を叩いた。こん、こん、こん。三つノックの音が響き]
……はーなこさん。
遊びましょ。
[個室に向かい、声をかける。と、次の瞬間、ばたん、と大きな音を立てて扉が――外開きの筈のそれが――内側に開いた。個室の中は、一面が血で真っ赤になっていた。便器からも血が溢れ出していて]
[ドアが開くのを、この目で見た瞬間に
返事の声など、聞く前に
思いっきり、マシロの手を引いた]
っ…―――
[体が動くとか、動かないとか
片手じゃ重たいとか、そんな事どうでも良く
ただ、純粋に、無くしてはならないと
無くしたくないと、思って、引っ張った]
こっちや、戻れっ…―――!
[背中から、今までで一番大きな寒気を感じた]
[便器の前の床には、頭があった。床が血の水面であるかのように、それは顔を覗かせて笑っていた。おかっぱ頭の、真っ白な肌の少女――花子さん]
!
[それらを視認するが早いか、花子さんの頭の横から、やはり真っ白い手がぬるりと長く伸び、素早く少女の右足首を掴んだ。そしてそのまま、ぐい、と引っ張る。それはヨシアキが左手を引っ張るのとほぼ同時で]
ヨシアキ……!
[その名を大声で呼ぶ。どぷり、と右足首までが赤い床に――血の沼の奈落に入り込み]
戻れ、マシロ…―――!
[渾身の力を入れて、引いているけれど
腕力と霊力は違うもので
そうそう、上手くは行かないかもしれない
それでも、この手だけは離さないと
そう、心に決めたのだから]
離さんからな、絶対っ…―――!
[背中から、声がする
聞いた事のない、女の声がする]
[問う声は、くすり、くすりと笑い続けて
願いを叶えたいのかと、語る]
そら、叶えたいわな
こいつ以外は、なんもいらんわ
[引っ張る手に、力が籠り
霊との引き合いは、どちらが勝つか]
貴方、願いは叶えたい?
[器に問うた声は、届いたようで
聞こえた答えに、くすり、笑う]
貴方の願い、叶えましょう?
ただし、お代は頂くよ
[酷く強い力で、足が引きずり込まれていく。恐怖のせいもあったか、体が固まったようにうまく動かなかった。それでもヨシアキの手を離す事はなく]
っ……!
[ずるり、足が滑る。体がどぷりと血の沼に落ち込む。ヨシアキの手を握る手に、右手も重ねた。視線はヨシアキと花子さんとを順に見て]
[両手が添えられた手を、更に強く握り
俺も、両手で彼女の手を握る]
っ…――――!
[どうなるか、わからないけれど
力は、確かに籠っている]
マシロ、痛くても我慢しや?
一緒に、おるからな
……うにっ。
もー、二人ともいちゃらぶだに。
[普段と変わらないような二人に、少しだけ、気分が落ち着いたような。
けれどそれも、女子トイレに入る所まで。
先程の理科室や階段と同じ様な、重苦しい空気。]
[自然に、喉が動く。
瞬間、風景が一変する。
逃げ出したい衝動が意識を駆け巡るけれど、足は縫い付けられたように。]
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