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[蛇遣いは、首元へ戻した白蛇をまた温める態で
毛皮の下へ包み―――ぐ、と深くフードを被る。
手曳き橇のロープを掴み、負い曳くに滑りは軽い。
みるみる嵩を増す積雪の表面がやわらかくならぬ
内にと蛇遣いは眉根を寄せて奥歯を噛み骸を運ぶ。]
…っ …
[やがてウルスラの住まい、寝台の上へ苦労して
獣医を横たえる頃にはすっかり息が上がっていた。]
「おふろ(*ノノ)」
という接続メモを00:39に残しておきながら
湯をはるのを忘れていて入れなかったとか
秘密です
仕方ないから有田みかん食べてる。
肉親に死を望まれる、ひとカケラ分でも……
[視線を上げ、カウコの頬へ指先を滑らせる。
そこには触れる感じなどあるはずもなく]
あなた達にも、絶望はあった?
[明確な答えを口にしないまま、後ずさり俯く口元は、いつかと似た弧を描いた**]
[一度身震いをして、ぐし、と鼻のあたまを擦る。
憮然とした面持ちの蛇遣いは何かを探す態で室内を
見回し――獣医の記帳机にあった紙を手に取った。]
…耳印、オラヴィ。低体温…
…耳印、ヘイノ。低体温、酷い涙目…
…耳印、ヘイノ。低体温…
…耳印、ヴァルテリ。低体温、過眠症…
…耳印、ユノラフ。低体温…
[読み上げるそれには、ウルスラが診ていた馴鹿の
症状と持主―耳の切目にて知れる―が*並ぶ*。]
ウルスラ先生、…やっぱり…
[人手を求める間ヘイノの家の後に盲目のマティアスや屈強とは言い難いラウリも訪ねたが、どちらも留守であった。彼らが森の傍で会話せずも互いに近くある事も知らず、ひとり戻ればトゥーリッキの視線と言葉―――藪睨みに怯むより前髪に隠れる眉を顰めた]
………はい…
[本来なら人手すら連れて来れぬ侘びを紡ぐのだろうが、ヘイノの姿が脳裏を過ぎりただ同道に肯定を示した。少しでも手伝えればと橇引くロープを求めた差し出しに預かるものはあったか―――息あがるトゥーリッキではなく、横たえられたウルスラを見て息を吐く]
…………
[トゥーリッキが読みあげるトナカイの症状は、ウルスラの書き残したものだろう。項垂れ膝の上で握りこむ拳が震え、歯を食いしばった]
[矢継ぎ早に零される言葉。]
……答えになってねーな。
[ごちるも、問いを重ねることはなく。]
不安なら、お前を捧げる前からずっと。
無力さなら、お前を見捨てた時からずっと。
だから俺は一度も祭壇へは行かなかった。
[指先に滲む赤は何をも想わせず。
娘の赤散る花飾りに視線をやる。]
考えてしまったら――あるいは絶望したかもな。
肉親の死を心の底から望む者なんかいない……。
だからと言って、お前より長老が辛かった
なんて言う気はさらさらないけどな。
[後ずさり、いつかと同じ笑みを称えるに眉根寄せ]
お前の気持ちは、実際にそうならなきゃ実感出来んし
判るとか陳腐なことを言うつもりもない。
[右手で帽子を被り直すもあまり実感はなく。]
が、やはり――気の毒なのは、ドロテアだ。
[呟き、視線を落とした地には今はその冷たさも感じぬ*白*]
[使者の男は、ウルスラの死とその無実を伝えていった。ナイフをしまい、眼鏡と手袋は外しても――見た目は常より赤いまま。己が殺したと。明言しなかったとしても、相手には察せられただろう]
……必ずしも。
苦境を、惨事を、終わらせんと。
[長老に報せる時は、そう付け足して。雪を踏み締め、歩いていく。その足跡は既に赤くなくなっていた。はたと、立ち止まる。感覚を失いかけている両手を見つめ]
……
[ゆらりと、己の小屋へ向かった]
…「やっぱり」何でしょう。
[途切れるトゥーリッキの言葉に、のろのろと顔をあげる。キィ…―――車椅子は軋み、トゥーリッキに向き直った]
………ヘイノが……亡くなってました。
他にも亡くなった方がいるんでしょうか…
[先の言葉への返事も含めヘイノと近しく見えた相手に報せる態で、死者のある場で別の死を紡ぐ。直接的に誰かに殺された様子でない事は、言葉からも知れようか。
眠りの先で感じた気配を想い、語尾はあがらずも零す声は重い。ウルスラを肩越しに振り返り、そこにある死を前に眼鏡の奥の眼差しを*細めた*]
[己の小屋に帰り来ると、赤が散った髪と顔を濯いだ。赤く染まる雪解けの水。噴き出た血が雪に広がっていったように。眼鏡のレンズを磨き、かけ直して]
……、
[火を入れた暖炉の傍に椅子を置いて腰掛けた。
小さな小屋の中には、必要最低限といえる家財の他には、幾らかの書物しかない。
指先で首飾りを摘み、眺めるでもなく見る。やはりところどころに血が付いたそれの中心、錆び付いたタグの裏には、ごく小さく細い文字で男の名前が書かれている。――アルマウェル・“J”、と]
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