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……レイヨ。
[軋む音。近くまで来た彼の名を呼び]
どうして。何故か。
為さねばならないからだ。血を以て、血を。
早く終結を迎えなければ……終焉が来たるからだ。
[問われる理由に、ぽつりぽつりと口にする。血を浴びた男の姿は、凶兆であるオーロラにより似ていたか]
死を。多く見たくないからこそ、殺した。
しかし。見たいからこそ、殺したのかもしれない。
[ウルスラに寄っていくレイヨを見据えながら返す答えは――疑っていたからだとは、言わないもので]
為さねばならぬ事は…
血を以て血を漱ぐ事なんでしょうか。
貴方の仰る終結は何で終焉がなんなのか…
僕にはわかりません。
貴方は死を見て何を感じられるんでしょう。
[紅いオーロラに似るアルマウェルへ訥々と返す間も、自らも殺そうとしたウルスラから視線をそらさない。飛び散り溢れた血の勢いは失せど、胸元から溢れる血は周囲の雪を赤黒く染めて広がっていく]
―――…ウルスラ…
[どこか正体を失って見えるアルマウェルの傍ら、それでも早く確かめようと丸薬を舌に乗せる―――塞がりきらない指先のカウコへ差し出した血の味が混じる。カクリとすぐに深い深い死の淵へと眠りに落ち、項垂れるように頭もさがった]
―――…、………
…………
[アルマウェルの傍ら車椅子に座すまま、半ば仮死状態で動かぬ時は長くはないが決して短くもない。咳き込み見開いた瞳からはぱたぱた涙が零れ、肩で息をしながらウルスラの遺体を見た]
違う………、…―――
彼女は狼使いじゃなかったんだ…
前に言った通りだ。血を以て、血を制する。
元凶を見付けん。事態を粛正せん。
狼遣いを処刑し切る事が、終結だ。
この村が滅びる事が、終焉だ。
[問い掛けには淡々と。
最後の問いに答える時だけは、少しく目を伏せて]
……悲しみを。寂しさを。苦しさを。
そして、恐れを。
[低くした声は若干震えを含んでいたかもしれない。丸薬を飲んで気を失うレイヨに、瞬き――やがて目覚めた彼の口からウルスラの無実を聞くと]
……そうか。……残念だな。
村の終焉を僕も望みません。
事の終結を願っています。
でも狼使いを殺せばすべて終わるんでしょうか。
狼は村を襲わずかえるんでしょうか。
[明けぬ夜に靡く紅い、禍々しくも美しくも見えるオーロラとよく似たアルマウェルへ、向き直る。伏せられる目、幽かな震えを含む声が語る―――死]
………残念…
きっと狼使いを見つけても残念です。
それで終わらなければ。
終焉から逃れられないというのならば。
その時は、諦めるしかない。
ただ。わからない事だ。
為さなければ……その後が、どうなるかなど。
[暗い空を、紅いオーロラを、仰ぎ見て。見つけても。そのレイヨの言葉には返事をせずに]
……レイヨは。
遠い過去を、覚えているか?
[代わりに、一言、問う]
私は覚えている。全てを。何一つ、忘れる事はない。
私はまじないなどできない。狼も操れない。
唯一、……記憶力だけは、必要以上に、甚だしい。
[オーロラを見ながら語る言葉は、告白のように]
それ故に。
この目に見たものならば、死も、けして忘れない。
[そこでふと、レイヨに向き]
……だからこそ。見たくない。
せめて。飽和させられればと思うからこそ。
見たいとも、思う。
[見たくないから。見たいから。先程そう返した「理由」を補足するように重ねる。暗い瞳に僅かに過ぎった色は、狂気に近かったかもしれない。――狼遣いのそれとも、揺らぐ者のそれとも、違う]
……矛盾。
愚かしいな。
[吐き捨てるよう、独りごちた後]
……。それでも。
村を救いたいと思っているのは。
そのためにこそウルスラを殺したのは。間違いない。
……特別に疑っていたわけでは、なかったが。
……、私はウルスラの件を伝えて来よう。
ウルスラは、誰か他の者に。
必要があれば、後で私が手伝っても良い。
[最後は使者としての表情と言葉に戻り、告げた。それから、血に染まった姿のまま、歩いていき**]
[狼たちの嗅覚は、ウルスラの死を知らせるが、
遣い手の感覚には他に――薄れてゆくものがある。
繋がっていた、対たるたましいのそれ。
群れを率いていた者。……帽子の男。]
…保てなくなって しまった か…?
[ひととおおかみの境を。個と群れの境を。
蛇遣いは呼ぶが、応えがないこともまた悟る。]
―――― …
[風が吹く。]
殺されたのでは、ないのだな。
死んだのでは、ないのだな。
[雪が舞う。]
保てなくなって しまったのだな。
[丘の向こうには、
蟻の如き列すら成せる、狼の大群。]
群れに頭目は独り…
そういうことなのだろうかな。
[見遥かす必要もない。感じて…呟くだけ*]
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