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あまり気は進まないけれど。
[物静かに大広間まで降り、進み出てきたメイドに丸のままの果物を希望する。
すぐに届けられた林檎の表面を撫で、皮を剥いてしばらく手に取ったまま待ち、そっと一舐めしてから口に入れ、ゆっくりと咀嚼を繰り返して飲み下した]
……何か。
[いつもなら気配なく消えてゆくメイドが近くに立ったままなのを見て、用事があるのかと首を傾げれば、淡々と黒衣の娘の死を告げられて言葉に詰まった]
ドロテア殿が。
あれはそういう意味でしたか。
[始まりに供されるもの。告げられた時はゲームそのものに気を取られて深く考えなかった言葉が耳に蘇る。
地下の武器庫が解放されたとも告げられ、喉が小さな音を立てた]
猶予期間も終わり、と。
[主の死にも動揺一つ見せないメイドに鋭い視線を注ぐ。それでも相手の表情が変わることは無かった**]
[一度は三階に行こうかと考えた。
どんな状態でなくなっているのか、ということはメイドは言わなかったからだ。
けれど武器庫があると聞かされたのもあって、どちらを優先するか迷い。
――どんな武器があるのかもわからずにいるほうが、不安だった。
だから、すでに死んでしまった娘を見に行くよりも、と階段を下りていく]
ろくでもないなあ、ほんと……
[ため息をつきつつ、一階で一度立ち止まって周囲を見渡した*]
[三階を見に行く必要はない。
自らの手で起こしたことだから。
行動しているときは半ば衝動で動いているようなものだったが。
覚えていないわけではないのだ]
[紅い月を呆然と見上げていたのはどれほどの時間だったか。
不意に、影のようなものが月の上に浮かび上がったような気がして瞬いた]
……なん、だ?
[文字通り、瞬きの刹那に消えたもの。
それが何なのかを確かめる術はなく]
……戻るか。
[今は、休息を取るべきだろう、と割り切って。
踵を返し、向かうは二階の個室。*]
[個室に戻った後は、諸々の疲れから眠り込み。
目が覚めて、最初に確認したのは窓の向こう。
やはりというか、雨はまだ降っていた]
……ぁー……。
[さて、どうしたものか、と。
そんな事を考えていると、ドアがノックされ。
訝りながらどうぞ、と応じれば、現れたのはメイド。
メイドは淡々と、黒衣の娘の死と、地下の武器庫の開放を伝えてきた]
……いや、その、なんていうか。
……冷静過ぎない、あんたたち。
[仮にも主が死んだというのに、何故こんなに冷静なのか。
それが取り決めだからと言わんばかりの態度は、人間離れしていて背筋がうすら寒い。
とはいえ、そこに囚われていたらヤバイ――という認識もまた、確かにあって]
……色々は、りょーかい……。
あ、申し訳ないんだけど、何か軽く食べられるもの、頼める?
[まずは体力つけないとまずい、と。
思い至ったのは、そこ。
食欲があるとは言えないが、いざという時に力が出ないのはまずいから。*]
[メイドから届けられた食事を取りつつ、持っていた荷物を開ける]
あー……まさか、こんなとこで使う必要出るとかねー。
[荷物の奥底から取り出すのは、布に包まれたもの。
包みを解けば、現れるのは護身用にと持ち歩いている短剣]
…………いやほんと、勘弁してって感じだわ。
[ぼやくように言いつつ、それを上着の内側に潜ませて。
食事を済ませると、食器くらいは下げるか、と思い、盆を片手に廊下に出た。
当の盆は、歩き出してすぐに現れたメイドによって速やかに階下に下げられたりしたのだが]
……さて……上に行くか、下に行くか。
[階段の前に立ち、巡らせるのは次の行き先。*]
[来訪者が立ち去った後、部屋の中は静寂に包まれ。
からくりの鳥は扉の前でじっとしていた。
その静寂が破られたのは、メイドが報せをもたらした時]
「あ……ああ」
「……そん、な」
[掠れた声が零れ、部屋に引きこもっていた人物が動き出す。
黒服を着こみ、更に分厚いマントで顔を隠した人物は、マントの裾をずりずりと引きずりながら三階へと向かう。
あとに残された鳥は、こて、と首を傾いでその背を見送った]
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